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江戸っ子気質(かたぎ)

江戸っ子気質(かたぎ)

幼い頃、生粋の江戸っ子である祖母に連れられ、近所の鮨屋に行った時の事。

握られた鮨が目の前に置かれ、私は、それを手で抓んで醤油を付けて食べる。

そこで婆ちゃんの一言、

「いいか、鮨を食うときは、シャリの3粒に醤油が浸かれば十分なんだ。ひっくり返してネタに浸けたり、シャリにべちゃっと浸けたりするのは、江戸っ子の食い方じゃねぇ!」

と、よく怒られました。

近所の蕎麦屋に行った時の事。

多分わたしにメニューの選択権はなかったと思われますが、いつも“ざるそば”がでてきます。

わたしは、一番粉で出来た白いそばを美味しく、ズルズル、ズルズルッと啜って食べます。

すると婆ちゃんの一言、

「いいか、蕎麦食う時は、5、6本箸につまんで、しっぽの1寸を蕎麦猪口のつゆに付けて、一息で吸い込むもんだ。ズルズルだらだら食べるのはみっともない、一回でズルッと食うのが江戸っ子だ!」

と、よく怒られました。

(少し大人になった頃、一緒に蕎麦屋に行った時も、蕎麦猪口の端にワサビを付けて食べてたら、けちょんけちょんに言われました。)

たぶん、祖母にとって価値観の源泉は江戸っ子文化(気質)であり、シンプルに「粋」か「野暮」かで白黒はっきりつける分かり易い判断基準だったように思えます。

江戸っ子の性格を表す言葉、「江戸っ子気質(かたぎ)

江戸っ子の全員がそうであったとは限りませんが、一般的には「江戸っ子」は次の様な性質を持っているとされているようです。

「粋(いき)で鯔背(いなせ)」「見栄っ張り」「向こう見ずの強がり」「意地っ張り」「喧嘩っ早い」「金離れが良い」「人情家で涙もろい」「正義漢」「駄洒落ばかり言うが議論が苦手」など。

決して褒められるようなものばかりではないようです。しかし、これらは「己の道を極めるために、自分を磨く生きの良い人間」の半面を表しています。「スキルを身につけるために金を惜しまない」=「金離れが良い」、「自分のこだわりを貫く」=「意地っ張り」なのです。

モテ職業

ところで、江戸時代、今のジャニーズのようなアイドルと言えば、歌舞伎役者だったようですが、現実的に男性(彼氏)の職業として一般女性に人気があった江戸のモテ職業ベスト3は、「江戸の三男(さんおとこ)」と呼ばれ、

・力士        ・火消し      ・与力(よりき)

だったそうです。

力士はそのどっしりとした貫禄はもちろん、川柳に「一年を 二十日で暮らす よい男」と詠まれた通り、江戸の本場所20日間(春・秋10日ずつ)相撲をとれば、その報酬で食べていけたため、カネも時間もたっぷりあったのでモテたそうです。

与力は、今で言えば警察と裁判所を合わせたようなところの高級官僚です。元々の家柄も良い場合が多く、地域密着型であったことから武家や商人からの付け届け(賄賂)も多く、裕福な者が多かったといいます。

火消しはその名の通り、いざ火災となればいち早く現場に駆けつけ、燃えさかる炎を恐れずみんなを守るヒーローとして尊敬されていました。古来「火事と喧嘩は江戸の華」と言わるとおり、活躍の機会には恵まれていたことでしょう。

お金

また、江戸のことわざには、「江戸っ子は宵越しの銭は持たぬ」というものもあります。

(ことわざの意味:江戸っ子は、その日に得た金はその日のうちに使ってしまう。)

当時の江戸の職人は、その日に稼いだお金はその日のうちに全額使ってしまい、「貯金なんてかっこ悪い」と考えていました。あまりクヨクヨ悩むことなく、お金に綺麗であることを自慢に思っていたのでしょう。

しかし、これにはもう一つの理由があります。当時の江戸は火消しが大活躍するほど火事の多い街であり、現代の様な立派な銀行など無い時代ですから、コツコツと貯金をしていても一夜のうちに全てを失ってしまうリスクが高かったのです。そのため、「お金はその日のうちに使う」という習慣が身についたとも言われています。

そう、江戸っ子たちは究極のリスクヘッジをしていたといえます。

最後にもうひとつ、江戸のことわざ、「江戸っ子の生まれ損ない金を貯め」

「江戸っ子は貯金をしない」とは言えど、全江戸っ子がそうであったというわけではありません。当時の江戸にも貯金をして、将来設計を立てて生活している人はたくさんいたはずです。

典型的な江戸っ子は、そんな彼らのことを「江戸っ子のくせに貯金なんかしやがって。野暮だね」とか「あいつらは江戸っ子の生まれ損ないだ」と揶揄したのです。しかし、そこは素直になれない江戸っ子。

江戸っ子気質の「見栄っ張り」「向こう見ずの強がり」「意地っ張り」「金離れが良い」「駄洒落ばかり言うが議論が苦手」あたりが台頭して、単純に貯金のある彼らが羨ましくて、ちょっと強がりを言ってみただけなんだろうと思います。

今の世の中、リスクヘッジの仕方についてはさまざまな方法があります。

あえて江戸っ子気質の究極のリスクヘッジをすることなく、リスクとリターンを見極めながら投資することが健全な投資と言えます。

くれぐれも『野暮』だけはしないようにしないと、死んだ婆ちゃんに怒られそうです。

須永 知樹

須永 知樹

5バリューアセット株式会社 エグゼクティブ・ディレクター。国内証券会社にて、債券ディーラー、スワップディーラーとして従事、ロンドン拠点ではチーフディーラーとしてディーリング部門を統括。 1999年メリルリンチ日本証券に入社。債券・クレジット・デリバティブのマーケティング・スペシャリストとして従事。 2007年日系投信会社に入社。地域金融機関の運用対象となる私募投信の開発・組成・営業を行う。