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日本のカメラ産業

日本のカメラ産業

カメラ(主に写真用)/光学機器の代表的なメーカーを配する国といえば、どの国が思いうかぶでしょうか? おそらく真っ先に名が上がるのはドイツだと思います。また、今日もっとも広く普及しているカメラともいえるiPhoneを送りだしたアメリカも、あながち間違いではないでしょう。

トップシェアを誇る日本

現在のカメラ製品(本体やレンズなど)の代表的なメーカーとしては、ライカ(ドイツ)、ハッセルブラッド(スウェーデン)に加え、キヤノン、ニコン、ソニー、富士フィルム、リコー、オリンパス、パナソニック、タムロン、シグマ、コシナ、カール・ツァイス(ツァイスグループ日本)などの名前が上げられますが、ライカ、ハッセルブラッド、ツァイス以外はすべて日本のメーカーであることは、あまり意識されていないと思います。

世界中のプレスが集まるオリンピックで使われているカメラはキヤノン(7751)とニコン(7731)の二強でしたが、近年ではそこにソニー(6758)も加わるようになりましたが、オリンピックのプレスが使うカメラもまた、ほぼ100%が国内メーカーの製品であるということに留意する人も、多くはないかもしれません。

日本のカメラの歴史(主として小型かつ携帯可能な35mm版)を遡ると、ライカII型をベースに改良を重ね、精機光学研究所(現キヤノン)と日本光学工業(現ニコン)による共同開発で1936年に発売された「ハンザキヤノン(標準型) +ニッコール50mmF4.5」に、その源流があります。その後も、旭光学工業(現 HOYA)の「アサヒフレックスIIB」、ミノルタカメラ(現 コニカミノルタ)の「ミノルタ α-7000」、ニコンの「ニコン D1」など、様々なカメラが国内メーカーから登場し、現在に至ります。

現在のカメラ事業を継続して抱える主要メーカーは写真用カメラやレンズだけでなく印刷機器、OA機器、ビデオカメラ、産業機器、医療用光学機器、創薬・再生医療、監視カメラ・車載カメラ等幅広い事業を展開しており、光学機器以外での業績拡大が顕著になっています。

老舗メーカーの事業比率を見る

ここでは、例としてキヤノンの公開資料(2024年4月25日更新)にまとめられた構成比を見てみます。資料によると民生・業務向けプリンター、オフィス向け複合機などが含まれるプリンティングが過半数を占めています。次点はカメラ等の光学機器が含まれるイメージング(キヤノンの事業として想起されやすい一般的な事業)、次いでメディカルという比率です。

定期健康診断を受ける際、クリニックの機器(モニター、顕微鏡、胃部X線装置)などに、先に名前をあげたメーカーのロゴを見つけることは少なくないでしょう。変わり種としては、病理検査の薄切(組織標本を制作する工程)で使われるミクロトロームなどにもライカ(正確にはライカバイオシステムズ)のロゴが付けられています。

図版: キヤノンHPより引用

レフレックスからミラーレスへ

本格的なカメラといえば、真っ先に思い浮かぶのは(今のところはまだ)レンズ交換式の一眼レフだと思います。フィルムカメラからデジタルカメラへの移行が本格的に始まったのが2010年頃といわれており、一般社団法人カメラ映像機器工業のデジタルカメラ生産出荷実績表を参照すると、2018年にミラーレス機が一眼レフ械を逆転しました。

図版: カメラ映像機器工業会 公開資料より引用

ミラーやペンタプリズムのないミラーレス機は小型・軽量のデザインを実現し、ファインダー内のモニターを視認(撮影の仕上がりをリアルタイムで確認可能)する電子ビューファインダー/EVF(Electronic Viewfinder)を搭載するほか、ファインダーを使わずカメラ背面のモニターを見ながら、さながらスマートフォンの感覚で撮影するようなスタイルも定着しています。
図版: ニコンHPより引用

初期のミラーレス機を牽引してきたのはリコー、オリンパス、ニコン、キヤノンなどですが、ミラーレス市場のゲームチェンジャーは2013年に世界初の35mmフルサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ「α7」を発表したソニーです。

二大メーカーキヤノンとニコンよるミラーレスカメラへの本格移行が遅かったこともあり、一時期はレンズ交換式ミラーレスカメラの代名詞といえばソニーのαシリーズという風潮がありました。とはいえ、ソニーといえば映像機器(特に業務用のカムコーダーや民生用のハンディカムやビデオカメラ)、家電製品、家庭用ゲーム機、ソニー・ピクチャーズやアニプレックスなどのグループ企業や子会社との連携で、映画からアニメまで手広くカバーするコンテンツ産業を抱える企業という印象が強くあるため、ソニーのスチル用カメラにはついては、製品の機能性とは別の、ブランドイメージからくる違和感を未だに抱いています。 

それとは逆に、キヤノンといえば写真用カメラというイメージが刷り込まれているので、EOS C200のようなシネカメラなどは、一眼レフの外観に長く慣れ親しんだ身としては異形的なデザインにに見えてしまい、そこにキヤノンのロゴが記されていることに違和感を抱くこともありました。
図版: EOS C200。キヤノンカメラミュージアムより引用。

メーカーの事業を多角的に見る

ソニーやパナソニックなど家電メーカーとしての側面を持っているメーカーは別として、長らくカメラを触っている方はキヤノンやのニコンといった老舗メーカーの主力事業はカメラやレンズであると思い込みがちなのですが、先に述べたように各メーカー光学機器の技術をベースにした大型機器からOA機器、医療など非常に多岐に渡る製品や事業を展開しています。セグメントなどを見ると、メーカーの顔ともいうべきカメラやレンズは、花形ではあれど事業の中での二番手として位置づけられています。

とはいえ医療の現場などでは、様々なメーカーが、特にカメラ・レンズ製品で培われてきた光学機器の技術を活かした機器を卸しており、現場で働く人の中には、カメラや光学機器ではなく医療機器のメーカーとして各企業を認識している人もいるかもしれません。

カメラやレンズの新製品の発表ニュースが流れてきても、株価の値動に対する影響は微細なものという印象があります。新製品が発表されるたびに熱を帯びた話題が盛り上がるカメラユーザーの反応に比して、株式市場の反応は冷淡だなと感じさせられます。

その一方、シンプルな事業内容を打ち出すことで注目を集めるメーカーもあり、写真業界に関心がない投資家の方でも、2024年4月下旬からの続騰が話題になったタムロン(7740)の名前に見覚えがあるかと思います。

【参考記事】
タムロンが続騰し最高値、24年12月期上期予想の増額を好感|会社四季報オンライン (toyokeizai.net)

非上場のシグマと並ぶ二大レンズメーカー(サードパーティー)であるタムロンは、一般向けのカメラ用交換レンズの製造をコーポレートアイデンティティとして非常に強く押し出しています。

毎年2月にカメラ関連の見本市CP+が横浜で行われ、タムロンは2023年に「祭り」をテーマに、国内の生産工場がある青森をアピールするデザインを凝らしたブースを出展し、オリジナルのねぶたを飾り注目を集め、カメラユーザーの間でも「タムロンの業績はかなり好調らしい」ということが度々話題になりました。一方のシグマは、レンズ製品のみならず会社のイメージも質実剛健な職人気質で、タムロンとは正反対に簡素・シンプルなブース展開でした。

タムロンは上場企業であるため、事業内容を非常にわかりやすくなおかつ幅広いレンジに発信することに重きを置いているほか、ソニーと共同して早い段階からソニーのミラーレス用(Eマウント)レンズを投入するなど、レンズだけでなくカメラ本体(ボディ)の開発も進めなければならないメーカーとは異なり、レンズ関連に専従できるサードパーティーならではのフットワークの軽さという強みを活かしています。





タムロンの事業概要 (タムロンHPより引用)

タムロンの事業概要を見ると7割が写真関連という非常にわかりやすいもので、プリンティングを大きな柱としながらイメージング(写真関連)、メディカル、インダストリアルと幅広く事業を分散させるキヤノンと対照的です。

タムロンの場合、圧倒的なシェアを誇るソニーとの共同で早期からミラーレス用レンズの市場を牽引してきたことや、ユーザーと投資家が抱く事業イメージが大手メーカーに比べてぶれが少ないことなどが、株価の続騰を支えてきた要因にあるとも考えられます。

見本市としてのオリンピック

2024年7月にはパリオリンピックが開催されます。スポーツ撮影はカメラ・レンズともに非常に高性能なものが求められるため、各メーカーはオリンピック開催年に合わせて動体撮影に強い新製品を投入したり、開発中の新機種のプロトタイプを貸し出してのテストを行うことが通例です。

写真席にはどのメーカーのカメラの比率が多いかという話題もオリンピックの風物詩です。キヤノンとニコンの二強時代は、望遠レンズが白(キヤノン)か黒(ニコン)で判別しやすかったのですが、近年では白黒を基調としたソニーの比率も高まっており、三社によるシェア争いに拍車がかかっています。

オリンピックが始まると、映像や写真で会場の模様を見る機会が増えると思いますし、それらの中に望遠レンズが大量に並んだ写真席の様子や、先週を追いかける様々な国のプレスカメラマの姿は多いと思います。そこで使われているカメラやレンズのほぼ全てが日本製ということ考えると、スマートフォンやAIなどは海外に圧倒されている一方、カメラ産業の強さあるいは特殊性を改めて感じさせられます。

写真用カメラ産業は、精密機器業界の中では計測器や医療・検査機器などに比べると小規模で、参入障壁の高さに対してのリターンが少ないと言われています。それゆえ、カメラ用CMOSイメージセンサなどの技術開発、精密機器の組み立てやレンズ加工についてのノウハウを膨大に蓄積し、各種部品の生産に特化した中小規模の工場を全国に抱える日本が、特権的な地位を占めていると考えられます。

 その一方、映像用カメラはアクションカメラのGoPro、DJIが牽引するカメラ付きドローン、様々なシネマカメラを手掛けるBlackmagic DesignやRED(24年4月にニコンの子会社化)、そしてiPhoneと、海外メーカーの製品が数多く使われており、写真用カメラのシェアのほとんどが国内メーカーで占められている状況とは大きく異なっています。

中国メーカーの台頭

2020年の記事ですが、「まさに独壇場! なぜデジタル一眼レフは日本ブランドばかりなのか=中国報道」というネット記事がありました。そこでも、カメラ開発の敷居の高さが指摘されていますが、やや玄人向けであれど手頃な価格帯のレンズを送り出す銘匠光学やLAOWA、国産メーカーよりも低価格かつバリーエーションが多彩なストロボやビデオ用ライト、その他周辺機器を手掛けるGODOXやNWEER、YONGNUOなど中国発でグローバルに展開する企業の躍進が、近年非常に活発化しています。

それらの周辺機器は日本国内では法人の正規代理店(ケンコープロフェッショナルイメージング)を経由してヨドバシカメラやカメラ専門店で購入することができますが、Amazonや楽天市場といったECサイトに比べると割高であり、ユーザー層はアマチュア層からセミプロ(GODOXのストロボは、スウェーデンのProfotoに比べても性能に比して割安なため、ハイアマチュアやプロで愛用する人も少なくありません)などがECサイト経由で購入のほうが圧倒的に多いようです。

趣味として楽しむ場合のレンズ選びや、業務も視野にいれた撮影などでは中国メーカーの製品の使用率は今後も高まっていくと思いますが、高い光学性能やカメラ本体との相性を考慮する場合はメーカー純正品か国内のサードパーティー製レンズが今後も使われ続けることに変わりはないでしょう。

【参考記事】

カメラメーカーにとっても4年に1度の戦い 今年の勝者は?【徳島新聞カメラマンが見たパラリンピック7】|社会|徳島ニュース|徳島新聞デジタル (topics.or.jp)

【経済インサイド】東京五輪の報道カメラ、白黒対決にシマウマ参入か(1/2ページ) – 産経ニュース (sankei.com)




主力製品が一眼レフからミラーレスへと代替し、カメラ本体のみならずミラーレス用に新規開発された交換レンズも、新製品の登場サイクルが早まっていることは、市場や需要が非常に活性化していることを示唆していますが、カメラ本体の高性能化に伴って本体価格も上昇傾向にあります。

一眼レフに比べて軽量・小型かつ、初心者でも扱いやすいミラーレスカメラに興味はあるけれど、価格帯にハードルを感じてしまうという方には、ミラーレス一眼カメラのレンタルがお勧めです。

より本格的・実践的な機材を選びたい場合はマップレンタル東京カメラ機材レンタルなどもありますが、モノカリは、カメラとレンズのセットが充実しているので初心者でもレンタル品選びに迷いにくく、空港内郵便局での受け取り・返却が可能という点も同業サービスと比べた際、特にライトユーザーやカメラの新規購入を検討している層にとっての利点になると思います。

鈴木 真吾

鈴木 真吾

2023年3月よりインハウスクリエイターとして写真・映像撮影および編集、グラフィックデザイン、DTPなどを担当。専攻は文化社会学、表象文化論等。

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