花火今昔
花火大会の季節がやってきました!夏の夜空に広がる美しい花火は、私たちに魔法のような煌めきを与えてくれます。
現代の花火大会は、技術の進歩により、壮大なスケールと美しさを誇ります。しかし、そのルーツは江戸時代にまで遡ります。日本の花火の歴史は江戸時代、戦国の鉄砲火薬からその技術の応用としてゆっくり発達したといわれています。
江戸時代の花火は、祭りや催し物の一環として行われ、人々を楽しませるための娯楽でした。江戸時代の花火は、手作業で作られ、竹の筒に火薬を詰め、手で打ち上げられるという素朴な方法で行われていました。当時の花火は、煙と鮮やかな色が特徴でした。紅や黄色、青、緑といった基本的な色が使用され、夜空に儚く舞い上がる姿は、人々の心を魅了していました。
『たーまやぁー!』、『かーぎやぁー!』の掛け声で有名な玉屋と鍵屋は、江戸時代に活躍した花火師の屋号で、彼らは独自の花火のデザインや技術で人々を魅了しました。
両国の大川(現在の隅田川)にて川開き花火大会(隅田川花火大会の原型)の際、両国橋の上流・下流で交互に花火を打ち上げ、観客は審査員よろしく、美しいと思った方の花火師の屋号を叫んだといわれています。
余談ではありますが、元々玉屋は鍵屋の番頭さんが鍵屋からのれん分けして創設した花火屋です。そもそも鍵屋は稲荷神社信仰だったため、狛犬ならぬ狛キツネがくわえている鍵を屋号にし鍵屋となり、玉屋もそれに倣って狛キツネが加えている玉を屋号に玉屋と名乗ったそうです。残念ながら玉屋は店から失火し、店のみならず、町の半丁(約1500坪)を焼く大火事となり、財産没収、家名断絶、江戸追放という厳しい処分の為、一代で廃業となりました。(ちなみに、鍵屋は今も江戸川区で鍵屋十五代目が継いで営業しています)
ところで、この打ち上げ花火のお値段。江戸の時代は、1発1両ぐらいだったので、今で換算すれば、約10万円程度。
隅田川の花火大会であがる花火はMax 5号玉(12cm)で、1発15,000円。 花火は、ここ200年ぐらいで、かなりリーズナブルになったようです。
江戸時代も後期になると、大川では川開きの日だけでなく、納涼期間中、夜ごと花火が上げられるようになりました。町人の経済力が増し、大店(おおだな)の旦那衆が花火のスポンサーになったからです。
旦那衆の豪遊ぶりは芝居などにも取り上げられるほど豪華絢爛なものでしたが、なかでも一瞬の輝きに大金を出す花火は、その主人の粋ぶりや店の繁盛ぶりを見せつける格好の余興でした。旦那衆が涼み船に乗って大川に繰り出すと、たちまち花火を売る花火船が集まってきたといいます。
一方、大川沿いに下屋敷を持つ諸大名も、「商人に負けてはならじ」と、競って花火を打ち上げるようになりました。
特に徳川御三家(尾張・紀州・水戸)の花火は、その豪華さで大人気。「今日は紀州様の花火」「明日は水戸様」と伝えられると、大川沿いにはたいへんな数の見物人が集まったとか。伊達政宗公以来の豪放な家風を表わしていると人気の仙台伊達家の花火では、見物人が集まりすぎ、その重さで藩邸近くの万年橋が折れてしまう事故まで引き起こすほどでした。
前回(2019年)の隅田川の花火大会の開催費用は、総額1億5000万円(打上げ費用:6500万円、警備費:3000万円、仮設トイレ・救護テント:2700万円、その他:2800万円)、それに対し出資は、東京都、近隣区で9250万円、テレビ放映権を含め企業から3600万円、有料観覧席等2200万円)となっています。
昔は、粋で見栄っ張りの江戸っ子の旦那衆や、伊達や酔狂の大名がスポンサーだったのに対し、現代では、行政機関が大スポンサーとなっている点(元を質せば庶民の税金)は、まさに時代の移り変わりを感じるところです。
ちなみに、プライベート花火の料金は、2,3分間(50~60発程度)割と小さ目の花火(3号玉)で、20万円~30万円程度が相場のようです。
江戸時代の花火は、現代の花火大会とは異なる風情がありました。1発1発の間隔が広く(花火職人が1発打上げるたびに竹筒を掃除し、また新しい花火玉を篭めるから)、今ほど明るくない夜の帳(とばり)の中で、その間(ま)も情緒楽しむ時間だったのかもしれません。そしてネオンの明かりもビルも無い夜空に、大音響とともに咲いた大輪はさぞかし輝いていたことであろうと想像できます。
現代の花火は、江戸時代の花火の伝統を受け継ぎつつ、技術の進歩によりさらなる美しさや迫力を追求しています。
コンピューター制御され、「色・形・光・音」の花火の4要素に加え、音楽やレーザー光線なども交え、まさに総合プロデュースされたエンターテーメントという感じです。
私たちは、夜空に広がる花火の美しさと煌めきを楽しみながら、江戸時代の花火の輝きにも思いを馳せることができるのです。現代の技術と江戸時代の花火の魅力が交差する夜空で、心に残る思い出を作りましょう。花火大会の魔法のような煌めきと江戸時代の花火の輝きが、私たちの夏を彩ります。