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金融の見方

国内3メガ銀グループのビジネスモデル比較

国内3メガ銀グループのビジネスモデル比較

ここでは、国内主要3メガ銀グループ(三菱UFJフィナンシャルグループ;以下MUFG、三井住友フィナンシャルグループ;以下SMFG、みずほフィナンシャルグループ;以下みずほFG)を参照し、2024年3月期までの決算で示された財務傾向やビジネスモデルの差異の変化を比較・確認し、その上で、各行の発行した資本性証券・社債への投資におけるリスク特性の違いについて概観します。なお、3グループを総称して、以下では3メガ銀グループと呼びます。

内容は5VAアナリスト・レポート「国内3メガ銀グループの財務傾向とビジネスモデルの比較」(5バリューアセット チーフ・インベストメント・ストラテジスト  上田祐介、2024年6月11日)をベースに、再編集を行いました。

アナリスト・レポート本編では、記事内では文量の関係で省略した「バランスシート指標からみた評価」、「規制資本から見た健全性」、「3メガ銀グループのAT1債券への投資評価」なども掲載してありますので、興味・関心を持たれた方はぜひそちらもご参照ください。

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3メガ銀グループの特徴の概観

以下の図表1で、3メガ銀グループのビジネスモデルの特徴を比較・概観しました。伝統的銀行業に強いSMFGと、非銀行業務に強いみずほFGとの違いが鮮明になる中、全方位で強いMUFGの優位性がより明確に顕在化しています。

収益力評価

① 粗利益・業務純益の四半期推移

以下の図表2には、3メガ銀グループの四半期別の粗利益(左図)と業務純益(右図)の推移を示しました。まず、3メガ銀グループの粗利益の傾向について確認します。

(1)粗利益

[FY2023(2024年3月期)通期]

・FY2023における3グループ合計の通期粗利益は、前年(FY2022)比では+12.3%増収で、3グループすべてが前年比で増収であった。

・個社別で見て増収率が最も大きかったのは、みずほFGで、金利収支やソリューション、投資銀行関連収益の拡大等に加え、市場環境の追い風もあり、顧客・市場部門ともに好調に推移し、+18.6%の2桁増収になった。

・SMFGは、SMBC日興の回復、SMCCの好調、国内外の貸金収益増等が起因し、やはり+17.9%の2桁増収となった。

・MUFGは、海外の融資関連や受託財産業務、資産運用ビジネスを中心に非金利収入は増収であったものの、前年の投信解約益5,557億円の剥落や米国地銀子会社のMUFG Union Bank(以下MUB)売却の影響等があり+5.1%の増収にとどまった。

[FY2023 Q4(1-3月) 四半期]

・直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の四半期粗利益は、前年同期(FY2022 Q4)比では+25.8%の大幅増収でしたが、前期(FY2023 Q3)比でみると+3.9%増収とペースダウンした。個別行で見ても、前年同期比で3行すべて増収となり、SMFGが+27.7%、みずほFGが+31.8%、MUFGが+20.6%の増収の2桁増収であった。

次に、3メガ銀グループの業務純益の傾向について確認します。

[業務純益;FY2023通期]

・FY2023における3グループ合計の通期業務純益は、前年(FY2022)比では+19.9%増益。個社で見ても3グループすべてで増益となり、特にみずほFGは+24.8%の増益で、トップラインの好調を受け1兆円に到達しました。みずほFGの顧客部門の業務純益は、FY2017以降で最高益となった。

[業務純益;FY2023 Q4]

・直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の業務純益は、前年同期(FY2022 Q4)比では+43.8%の増益となった。個社別にみても3グループすべて増益で、+42~45%程度の大幅な増益となった。

・一方、前期(FY2023 Q3)比で見ると、直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の業務純益は、-22.8%の減益となった。3グループのいずれも減益となっていたが、国内銀行グループの営業経費は季節性を伴って決算期前のQ4に増加する傾向が強くある。このため、トップラインが順調で過度な臨時費用が生じていない現状では、前期比について過度に問題視する必要はないと弊社では考えている。

② 粗利益・業務純益のからみた業務粗利益シェアの推移(年次)

以下の図表3には3メガ銀グループ合算でみたFY2022通期とFY2023通期の粗利益(左図)と業務純益(右図)の構成比を示した。2期間における粗利益の増収率は+1.3%、業務純益の増益率は+19.9%でした。

FY2023における3グループ合算粗利益の構成比を見ると、事業規模が最大であるMUFGが約4割強を、SMFGが約3割強を、みずほFGが2割強をそれぞれ占める構造となっています。業務純益の構成比もほぼ同水準ですが、利益率の高いSMFGとみずほFGの構成比は粗利益よりも若干高く、逆にMUFGの構成比は若干低い傾向です。 3グループいずれも増収増益傾向にあった一方で、相対的に増益幅の小さかったMUFGは3グループ内における業務純益のシェアを落としています。

純金利収入・非金利収入の推移

以下の図表4には、3メガ銀グループのいわゆる伝統的銀行業務の本業である純金利収入(資金利益)(左図)と、より投資銀行的な業務に類する非金利収入(信託報酬、役務取引等収益、特定取引収益、その他業務収益)(右図)の四半期推移を示しました。以下で直近四半期(FY2023 Q4)を基準にそれぞれの利益水準の動向を各行別に確認してみましょう。

(1). 純金利収入(主に貸付金事業に起因する資金利益)

[FY2023通期]

・FY2023通期における3グループ合算の純金利収入は、前年比で-6.4%の減収。

・個社別にみると、特に減収が大きかったのはMUFGで、前年の投信解約益5,557億円の剥落や米地銀子会社MUB売却の影響等を受け、-15.5%の減収。ただし、これらの一時影響を除けば預貸金収益を中心に増収となった。

・みずほFGは前年比で-7.5%の減収で、海外貸出金の前年比での減少等に起因します。

・SMFGは海外銀行現地法人や、インドのノンバンク事業の好調により、+9.5%の増収でした。

[四半期 (FY2023 Q4)]

・直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の純金利収入は、前年同期比(FY2022 Q4)で+11.9%の増収で、前期(FY2023 Q3)比でも+16.2%の増収。

・個社で見るとみずほFGが減収、他2社は増収。SMFGの純金利収入は預貸金収益が残高・利回りともに増加し、前年同期比で+21.2%の増収となった。

・また、MUFGの純金利収入は、預貸金収益を中心に増収し、前年同期比で+10.8%の増収。

・みずほFGは、海外貸出金の流出が影響し、前年同期比で-2.6%の減収。

(2). 非金利収入(信託報酬、役務取引等収益、特定取引収益、その他業務収益等)

次に、3メガ銀グループの非金利収入について確認します。

[FY2023通期]

-FY2023における3グループ合計の非金利収入は、前年比で+36.3%の増収。

-個別行で見ると、3行すべてが増収で。特に増収が大きかったのはMUFGで、海外の融資関連や受託財産業務、資産運用ビジネスを中心に、各種手数料収入が増加、+42.6%の大幅な増収を達成した。

-みずほFGは、国内外の法人・投資銀行業務の好調や、与信関連手数料の増加により、前年比で+37.8%の増収となった。

-SMFGは、SMBCに加え、SMBC日興の回復とカード事業であるSMCCの業容拡大が非金利収入の増収を牽引し、+27.9%の増収となった。

[四半期(FY2023 Q4)]

-直近四半期(FY2022 Q4)は前年同期比で+43.9%の大幅増収。一方、前期(FY2023 Q3)比では-6.2%の減収。

-個別行でみると前年同期比では3行すべてが増収となった。特に増収が大きかったのはみずほFGで、+59.2%の増収。

④ 利益率(マージン)の推移

以下の図表5には、3メガ銀グループの通期(左図)、四半期別(右図)の税引前利益率(マージン)の推移を示しました。

[FY2023通期]

-通期で見ると、FY2023における税引前利益率はSMFGが41.3%、みずほFGが41.5%、MUFGが44.4%と、利益マージンの水準に大きな差がついた。

-過去からの推移を見ると、みずほFGとMUFGは、業務粗利益(トップライン)の増収を維持しつつ、経費率を抑制できたことで税引前利益率が改善トレンドを示した。

-一方、SMFGは、業務粗利益の水準自体は増収となっていたが、経費も同様に増加しており、利益率は横ばいで推移した。

[四半期(FY2023 Q4)]

-四半期で見ると、直近四半期(FY2023 Q4)における税引前利益率が前年同期(FY2022 Q4)比で改善したのは、SMFG(+16.9ポイント)のみであった。

-みずほFGの税引前利益率は、前年同期比で-11.9ポイント悪化。これは直近四半期において、非金利費用がかさんだほか、株式等関係損失等の臨時損失を計上したことに起因。

-MUFGの税引前利益率は、さらに-59.1ポイントと大幅に悪化。ただし、これはFY2022 Q4においてMUBの6,995億円の売却益を計上した一時要因からの反動であり、実体は悪化していない。

3グループの中で、みずほFGとMUFGの利益率の変動がSMFGと比較して大きくなっています。一時要因以外の理由として、みずほFGはマーケットや景気の影響を強く受けやすい投資銀行業務等の非金利収入の割合が高いこと、MUFGは新興国等への積極的な展開していることで相対的に収益のボラティリティが高くなっていること、などが挙げられます。一方、SMFGは相対的に変動が少なく、ビジネスモデルが安定していることを示唆しています。

収益性からみた各銀行グループの傾向と特徴

【MUFG】
・伝統的銀行業務も安定して強固な市場シェアを有している。過去にはSMFGに比べ利益率が低く収益性で劣りやすい傾向だった。しかし足元では大幅な改善により収益性でも逆転するなど、ビジネスモデルがより強固に。

【SMFG】
・伝統的に高い利益率を安定して維持。過去3年程度の平均収益率は3グループで最も高い水準。

【みずほFG】
・伝統的銀行業の競争力が同業他社に比べ相対的に弱い。
・一方、投資銀行業務などを含む銀行以外の業務は伸長している。この結果、足元で収益性が大幅に改善。
・投資銀行業務を含む手数料主体も非銀行ビジネスは、規制資本をそれほど使わずに利益が上げられるという点で経営効率の高いビジネスである。しかし、同時に市場環境に依存しやすいという側面もある。このため、もし仮に景気反転や金融市場でのリスク増大などが生じた場合には、現在のような高い収益性を維持できなくなる可能性も含んでいる。

環境変化への適正

営業費用・与信関係費用の推移

以下の図表6には、3メガ銀グループの四半期別の営業費用と与信関係費用の推移を示しました。

(1) 営業費用

[FY2023通期]

-FY2023通期で見ると、営業費用は3グループ合計で前年比+7.9%の増加。

-個別行で見ると、SMFGが対前年比+15.5%、みずほFGが同+15.1%と増加したのに対し、MUFGは同-0.7%とわずかだが減少した。

-過去からの推移で見ても、MUFGの営業費用の増加は緩やかなのに対し、SMFGとみずほFGは相対的に増加傾向にある。

[四半期(FY2023 Q4)]

-直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の営業費用は、前年同期(FY2022 Q4)比では+17.4%増加、前期(FY2023 Q3)比では+16.3%増加となった。

-個別行で見ると、SMFGが前年同期+18.8%、前期比+12.9%、みずほFGが前年同期比+26.8%、前期比+26.3%、MUFGが前年同期比+11.2%、前期比+13.3%といずれも上昇している。

短期・長期のいずれで見ても、各社の営業費用はバランスシートの拡大を伴うビジネスの拡大を受け増加傾向にあります。短期的には、3グループとも円安による為替影響と、インフレによる海外業務の経費増加に起因します。長期的な営業費用の増加は預金流入を受けた本業収入の拡大に伴ったものであり、3グループいずれも経営状況の悪化は見られません。その中でもみずほFGとMUFGは、増収比で営業費用の増加を抑制できており、利益率の改善がみられています。

(2)与信関係費用

[FY2023通期]

・FY2023通期で見ると、与信関係費用は3グループ合計で前年比-9.9%と減少。

・個別行で見ると、SMFGが対前年比+30.4%、みずほFGが同+19.1%と大幅に増加したのに対し、MUFGは同-26.2%と減少した。

・SMFGとみずほFGは、先行きの環境変化を踏まえフォワードルッキングな引当金を計上したことに起因し、与信関係費は短期的に増加した。一方、MUFGは、前年に計上したMUB(米国)の保有貸出金の評価損の反動で与信関係費は減少となった。

[四半期(FY2023 Q4)]

-直近四半期(FY2023 Q4)における3グループ合計の与信関係費用は、前年同期(FY2022 Q4)比で+48.8%増加となった。

・個別行で見ると、SMFGとMUFGはそれぞれ前年同期比で+40.7%、+23.1%の増加、みずほFGは前年同期比でおよそ4倍に拡大した。

税引き前利益及び収益・費用の推移

以下の図表7には、3メガ銀グループの四半期別の利益構造の推移を示しました。

・FY2023通期における3グループ合計の利益構造を見ると、非金利収入の増収(前年比+36%)が主因となり税引前利益は26%増益となった。

・個別行で見ると、SMFGは、非金利費用、信用コストとも増加したものの、純金利収入および非金利収入の増分が費用を上回り、税引前利益は+22%の増益となった。

・みずほFGは、純金利収入は減収であったが、非金利収入の大幅な増収が、非金利費用の増分を補い、税引前利益は+23%の増益。

・MUFGは、非金利費用、信用コストとも減少、純金利収入は減収であったが非金利収入が大きく増加し、税引前利益は31%の増益となった。

・数年前からの長期的傾向をみると、SMFGとMUFGは収入のうち、純金利収入が伸びている一方、非金利収入は相対的にマイルドに推移している傾向にある。一方、みずほFGは非金利収入を拡大している一方、純金利収入は横ばいで推移している傾向にあり、比較優位がある事業が企業により異なっている。

[四半期(FY2023 Q4)]

-SMFGを除いて、直近四半期(FY2023 Q4)における税引前利益は前年同期(FY2022 Q4)比では減益となった。みずほFG、非金利費用がかさんだほか、株式等関係損失等の臨時損失を計上したことに起因する。MUFGは前年(FY2022 Q4)にMUB(米国)の6,995億円の売却益を計上した反動に起因する。ただし、第4四半期特有の季節性の影響もある。

費用構造からみた各銀行グループの傾向と特徴

【MUFG】

-事業再編の影響もあるが、通期の営業費用は増加せず。海外の一時要因からの反動で与信関係費用も減少。資本コストを要する伝統的な銀行業務はコストの抑制により収益性が改善。さらに、非金利収入も改善し、市場環境に合わせた最適化を実施。経営のイニシアチブも含んだ環境変化への耐性は最も頑健とみる。

【SMFG】

-銀行業務において伝統的に高い利益率を“安定して”維持。過去3年程度の平均収益率は3グループで最も高い水準。ただし、営業費用と与信関連費用も共に大幅に増加。フォワードルッキングな引当増は、同行グループの基礎体力の強さを示すもの。それでも、もし世界的な信用リスク増など経済環境の悪化が生じた場合に、伝統的銀行業への依存度が相対的に大きい点は意識しておく必要がある。

-ただし、前年までの証券や航空機リースにおける一時的なビジネス機会の減少などからの改善影響もあり、非金利収入にはさらなる成長余地。

【みずほFG】

-伝統的銀行業の競争力が同業他社に比べ相対的に弱い中、営業費用と与信関連費用も共に大幅に増加。銀行業のリスク耐性は3メガ銀グループの中で最も脆弱。

-一方、投資銀行業務などを含む銀行以外の業務は伸長している。この結果、足元で収益性が大幅に改善。

-投資銀行業務を含む手数料主体も非銀行ビジネスは、規制資本をそれほど使わずに利益が上げられるという点で経営効率の高いビジネスである。しかし、同時に市場環境に依存しやすいという側面もある。このため、もし仮に景気反転や金融市場でのリスク増大などが生じた場合には、現在のような高い収益性を維持できなくなる可能性も含んでいる。

-結論として、非金利収益の大幅な伸長はあるものの、市場環境の変化に対する耐性は3グループの中で相対的に弱い。



 アナリスト・レポート本編では、記事内では文量の関係で省略した「バランスシート指標からみた評価」、「規制資本から見た健全性」、「3メガ銀グループのAT1債券への投資評価」なども掲載してありますので、興味・関心を持たれた方はぜひそちらもご参照ください。

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上田祐介

上田祐介

5バリューアセット株式会社 副社長兼インベストメント・ストラテジスト。1991年より大和総研でキャリアを開始。2001年より複数の欧州系・米系大手投資銀行でクレジット関連業務を担当。2010年よりメリルリンチ日本証券の、2017年からは三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ・クレジットストラテジストとして国内外のクレジット市場の調査チームを統括。日経ヴェリタス等の外部顧客評価で実績を上げる。

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