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アメリカのIFA(独立金融アドバイザー)とは?

アメリカのIFA(独立金融アドバイザー)とは?

最近、岸田内閣が資産所得倍増計画を進める中で、アメリカと日本では家計に占める金融資産の蓄積に大きな差がある、とのニュースをよく見かけるようになりました。

日本では、個人が金融資産の蓄財の手段として貯蓄を主にしているために65歳時点の平均として約2,000万円(中央値では約1,300万円)を貯めるのがやっとです。しかし、アメリカでは、株や債券、投資信託などの運用資産に振り向けることで2~3倍の金融資産を蓄財しており、結果として安定した老後を送ることができる人が多い、といった違いです。

こうした個人の富裕化をサポートしているのが、独立金融アドバイザー(IFA)と呼ばれる専門家です。従来から個人の投資が盛んなアメリカでは、金融商品を引き受けたり組成をする金融機関からの営業とは別に、独立した立場で中立的に個人投資家への資産運用のアドバイスを生業とするIFAを抱えるIFA法人と呼ばれる事業者が長年にわたり活躍しています。

日本でも金融仲介事業者としてIFAの存在感が増してきましたが、長い歴史を持つアメリカとは、社会への浸透度にまだまだ大きな違いがあります。

そこで、今回はアメリカのIFAについてご紹介してみたいと思います。

IFA法人ランキング(2022年)

アメリカでは多くのIFA法人やアドバイザーが存在します。アメリカのIFAは、いずれも得意とする専門分野を持っており、提供しているサービスもそれぞれ異なります。ただし、その目的は共通です。つまり、それぞれの顧客の合った人生設計のパートナーとなることです。ここでのサービスとは、単なる資産運用に留まらず、どのようにそれぞれの顧客の資金規模、引退後の人生設計、資産や事業の承継、保険の活用、長期の医療や介護、税制などを含めた人生設計を踏まえた、金融資産や資金の流れの設計を作ることです。

アメリカでは、顧客がより良いIFA法人を選べるよう、ForbesやCNBC等の有名なメディアが毎年ランキングを行っています。以下では、CNBC社が公表している2022年のIFA法人ランキングで、上位に入っているIFA法人について確認してみましょう。

このランキングで最も特徴があるのは、その創業してからの年数(業歴)の長さです。TOP 20のうち最も業歴の短い法人で14年ですが、多くの法人が30~50年と長い業務の歴史を持っています。これは、日本のようにまだIFAの歴史が短い国とは大きな違いです。

また、管理資産が大きい割には顧客が少ない法人も多く、富裕層との長い年月の付き合いを大切にしていることが分かります。

一方、TOP 100に含まれる法人であっても、非常に多くのIFA法人の中でかなり大きな順位の入れ替わりが生じています。しかし、2位のDana Investment Advisorsは前年も1位、6位のSalem Investment Counselorsは前年も2位と、高い評価を安定して継続に得ているIFA法人も存在します。

トップIFA法人の経営哲学

Dana Investment Advisorsはアメリカでも都会とは言えないウィスコンシン州で事業を行うIFA法人です。以下のリンクでは、同法人の経営者であるマーク・ミルスバーガー(Mark Mirsberger)氏が、ランキング1位になった時のインタビュー記事が掲載されています。

(出所)No.1金融アドバイザーとの出会い、CNBC、2021/10/6

詳細については同記事を読んでいただくとして、ここでは同氏がお客様にどのように接しているのか、そのポイントをいくつか参照したいと思います。

  • 同社がお客様と共に成功してきた多くの経験は、時々で変わる短期的な市場の変化を追いかけるのではなく、10年、30年のスパンで見ても変わらない本質を、忠実に追い続けたことによって得られたものです。
  • 市場が良い時に短期的な動きを追いかけることは誰でもできます。しかし、市場が混乱し運用資産や市況が非常に悪い状況にあっても、長い運用のゴールを目指す上では「世界が終わらない」ということを淡々と伝え、長い期間をかけた着実な成長を目指すことが大切です。
  • 同社がともに積み上げてきた、顧客の長期にわたる運用と人生設計の上での成功は、スマートな資産配分(アロケーション)と、継続的な積立て、複利と再投資により得られる着実な資産の成長によって得られてきました。
  • インターネットによって様々な情報がすぐに入手できるようになった一方で、投資家は何が最も重要で何を信じるべきかを判断するためのサポートを求めています。
    多くの人は細かい字や数字等からなる資料を読むのが好きではありません。私たちがお客様に提供している付加価値は、目論見書を熟読し様々な情報を精査することによって生み出しています。
  • 絶対安全で確実に高い収益を続けられる運用はありません。そうした提案を行う人たちを信じるべきではありません。
    また、一部の暗号通貨資産やウォール街が販売しているエキゾチックな商品は、個人の長い人生を考えた運用に本当に適しているのか、疑問です。

ご覧いただいたように、そんなに特別なことを言っているわけではありませんね。

でも、短期の運用とは異なり、長期にわたり顧客の人生を支える誠実なアドバイスは、ぶれない軸を持ち、長期間でも変わらないやり方を守ることにより提供できる、これがアメリカのIFA法人で1位になったマークさんのメッセージです。

金融庁の掲げる「顧客本位の業務運営」との比較

金融庁では、国内の金融機関に対して、「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)を求めています。

金融機関が、自社の利益ばかりを重視して、真に顧客のためになる提案や業務を行っていない状況が見られることを懸念しているのです。

ここで、金融庁がずっと提言し続けてきた「顧客本位の業務運営」に関する原則を引用して締めくくりたいと思います。

(出所) 「顧客本位の業務運営に関する原則」より抜粋、金融庁、2017/3/30

【顧客の最善の利益の追求】
 原則2.顧客の最善の利益を図るべきである。

【重要な情報の分かりやすい提供】
 原則5.金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

【顧客にふさわしいサービスの提供】
 原則6.金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズ を把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を 行うべきである。

金融庁が求めている内容は、米国と同じような金融サービスを日本でも作り上げることになっています。具体的には、相場の上げ下げに応じた金融商品の短期売買ばかりを進める金融事業者、きわめて安い金利や予定利率の預金や保険商品を買わせて自社の利益のために利ザヤを抜く事業ばかりにフォーカスする金融機関、などから卒業して、日本の金融業界を個人や国民のためのものにしたい、という理想が示されているのです。

日本でも、顧客の人生に寄り添い、長期の視点に立ち、人生を通じて付き合えるIFAが育ち、よりみなさんの身近な存在になるとよいですね。

上田祐介

上田祐介

5バリューアセット株式会社 副社長兼インベストメント・ストラテジスト。1991年より大和総研でキャリアを開始。2001年より複数の欧州系・米系大手投資銀行でクレジット関連業務を担当。2010年よりメリルリンチ日本証券の、2017年からは三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ・クレジットストラテジストとして国内外のクレジット市場の調査チームを統括。日経ヴェリタス等の外部顧客評価で実績を上げる。

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