
以前に公開した記事「国内IPコンテンツのグローバルな展開」では、ゴジラやウルトラマンといった長寿IPが世界各地で地域毎の特色を伴って人気を博している状況や、日本産のアニメ、マンガ、ゲームといったコンテンツも世界から注目を集め、特に今後の展開においては中国市場やサウジアラビアの観光都市キディヤ(2025年に「オリンピックeスポーツゲームズ」が開催予定)が重要な位置を占めていくことなどについて触れました。
今回の記事ではアニメやゲーム、そして映像作品の日本独自(ドメスティックあるいはグローカル)な活用方法についてまとめていきたいと思います。
遊技業界におけるIP活用
ゲームやアニメなどの作品は、本編(作品や物語構造)から離れ、あるいは拡張するような形で他メディアとのシナジー効果を探る、いわゆるタイアップやメディアミックスが盛んに行われています。その中でも日本独自ともいえる特殊事例がパチンコ(ぱちんこ遊技機)やパチスロ(回胴式遊技機)などにおける展開、いわゆる遊技業界におけるビジネスモデルです。

近年は鋼玉やメダルといった物理媒体を遊技機内の循環で完結させ、持ち玉・メダルは数字で表示するスマートパチンコ(スマパチ)、スマートパチスロ(スマスロ)が主流となりつつあるそうで、銅玉の入った箱が積み上げられていくといった光景は近いうちに消えていくかもしれません。また、スマート機への切り替えなどで、パチンコホール向けのコンピューターや制御装置、情報公開端末(遊技機の上部に搭載するタッチパネル形式の中型液晶「REVOLAII」など)を手がけるダイコク電気株式会社の業績が牽引されたそうです。
現在の遊技機は非スマート機種(いわゆるデジ機)でも液晶画面の搭載は標準的な仕様となっており、アミューズメントマシン然とした工夫を凝らしたギミックが搭載されているものも多く、1台あたりの単価も高価格になる傾向があります。
遊技機の代表的なメーカーとしては、SANKYO、平和、藤商事、京楽産業、セガサミーホールディングス、円谷フィールズホールディングスなどがあげられます。特徴的なメーカーは、かつては任天堂と双璧を成したゲームメーカーのセガ・エンタープライゼスが遊技機を手がけてきたサミーによる2003年の買収で経営統合を経て2004年に設立されたセガサミーHDと、遊技機メーカーのフィールズ(旧 東洋商事)が2010年にウルトラマンほか多くの特撮番組を手がけてきた円谷プロダクションを子会社化し、2022年の商号変更でHD体制に移行した円谷フィールズHDです。
元々は遊技機メーカーであるサミーとフィールズが、それぞれが独自のIPコンテンツを制作しており、過去のアセット(資産)を豊富に所持するセガや円谷といった会社と合併・HD化することでIPアセットをより効率的に使うことが可能になるほか、提携各社が所有するIPを自社製品やライセンスビジネスとしても活用できるという点で競合他社との差別化が行えます。また、遊技機『エヴァンゲリオン』シリーズでヒットを飛ばしたフィールズは、ゲームメーカーのカプコンの100%子会社で、遊技機制作を手がけるエンターライズと2009年(円谷の子会社化の前年)に取引契約を締結し、カプコンのゲームIPを使用した遊技機を多数発表するなど積極的な提携体制を固めています。
タイアップによる拡大戦略
既存のIP(いわゆる版権モノ)が遊技機のタイアップに選ばれる理由には、作品自体の知名度が一定数あり、作品のファンという潜在的ユーザー層への訴求や、懐かしさを感じさせる古い作品であれば中高年層への宣伝拡大を期待できることなどがあげられます。さらに、演出等のアイデアやギミックなどを作品から流用したゲームシステムが設計しやすいこと(ヒット作『パチスロ北斗の拳』や『エヴァンゲリオン』シリーズは、作品の特徴的な演出がシステムと強い相乗効果を生み出し人気を博しています)、レンタルや配信で作品が視聴されることへの期待(放送や作品販売、版権使用料以外でのロイヤリティ収入)なども、IPが遊技機に採用される理由としてあげられます。
変わり種としては、『ドラゴンへの道』や『死亡遊技』といった映画作品の本編映像も登場する『パチスロ ブルース・リー』(2007年、藤商事)や、『CR マツケンサンバII』(2006年、藤商事)、韓流ドラマブームの話題性を活用し、ドラマの主要な視聴者である中高年女性層をホールに呼び込むという戦略が非常に明確だった『CRぱちんこ冬のソナタ』(2006年 京楽産業)などもありました。
既存作品や芸能人とのコラボレーションやタイアップ(200)は、液晶モニターの高性能化(パチンコ機は1991年、スロット機は1999年に液晶搭載機が登場)や、遊技機のデジタル化によってより映像をふんだんに使った演出がスタンダードとなり、タイアップ機の点数も急速に増えていったと考えられます。その理由としては、機器のデジタル化によって素材の利用幅が大きく拡大したことなどがあげられますが、この点については後ほど詳述します。

サミー式会社HPより引用
タイアップの作品の嚆矢は、パチンコでは芸人の河内菊水丸をフィーチャーした『オロチョンパII』(1992年 SANKYO)といわれており、アニメーション作品とのタイアップはスロットの『ピンク・パンサー』(1995年 山佐)が最初であるといわれています。また1996年にはサミー初のタイアップ機『ウルトラセブン』も発売されましたが、いずれの機種も液晶画面の搭載以前のものなので、キャラクターの意匠やデザイン、作品タイトルを使用するような形であり、遊技機のシステムや演出等で本編を拡張するよう傾向の強い今日のIP利用とは大きく異なります。
最初期のIP利用が『トムとジェリー』でも知られるアメリカMGM(Metro-Goldwyn-Mayer Studios)のアニメーション作品『ピンク・パンサー』(初期シリーズが1970年代に、テレビ東京が共同出資で製作に参加した90年代のシリーズが1994年-95年まで国内でテレビ放送)だったことは、遊技機におけるIP利用において国内のアニメ作品が圧倒的なシェアを占める現在からみると不思議な感じもあります。
国内IPに注目が集まるきっかけは1998年の『CRルパン三世』(平和)のヒットであるといわれています。同機のヒット以降はマンガやアニメのIPを利用した遊技機が盛んに登場し、なかでも2003年の『パチスロ北斗の拳』(サミー)はパチスロ市場最大といわれるセールスを記録しました。
『パチスロ北斗の拳』はマンガ原作(連載:1983-1988年)やアニメ版(放送1984-1988年)を知らなかった層に作品に対する関心を呼び起こし、単行本の復刊(2004年にコンビニコミック形式で販売ほか)、グッズ展開、新作映画の公開など、俗に「第三次『北斗の拳ブーム』」と呼ばれるほどの人気に繋がっていきました。
『パチスロ北斗の拳』では筐体上部に液晶画面が搭載され映像をふんだんに利用した演出が可能になっていましたが、アニメ版の放送が80年代と古いだけでなく、当時はデジタル制作ではなくセルアニメーションであったため、映像部分は新規制作のCGが用いられていました。この点も、デジタル制作のため作品の素材や本編映像をそのまま流用しやすい近年のIPタイアップ機とは大きく異なる点といえます。
遊技機におけるIP利用の代表作
スロットにおける大ヒット作は『北斗の拳』シリーズですが、パチンコのヒット作は『エヴァンゲリオン』シリーズが代表格です。遊技機のヒットが新規層(ユーザーの中でも特にアニメの視聴に関心のなかった熟年・シルバー層や、ノンデスクワーカー層に強く訴求したといわれています)を開拓し、作品のブームをリバイバルさせたという点で、『北斗の拳』との共通点も多くあります。
『エヴァンゲリオン』シリーズは、1995年1996年にテレビ放送された『新世紀エヴァンゲリオン』および97-98年の劇場版(通称「旧劇場版」)が社会現象的なブームを巻き起こすほか、テレビアニメを主軸にしつつも様々なメディアミックスが展開された作品です。その後、2007年に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』が公開され、新劇場版4作目かつ完結編となった『シン・エヴァンゲリヲン劇場版』が2021年に公開されました。
遊技機の1作目『CR新世紀エヴァンゲリオン』(開発: ビスティ、販売:フィールズ )の発売が2004年12月で、シリーズの人気が本格化したのは2006年2月に発売のスロットを含めて3作目にあたる『CR新世紀エヴァンゲリオン・セカンドインパクト』以降といわれています。
アニメ誌上で新劇場版の制作が発表されたのがテレビ放送10周年となる2006年の9月であり、は、ちょうど「旧劇場版」と「新劇場版」の間の時期にあたります。新劇場版の制作が発表されるまでに登場した3作は、『北斗の拳』と同様に作品を知らなかった層へ認知度や訴求力を高めるウインドウとして機能し、『新劇場版』の人気拡大に貢献するだけでなく、続編の製作資金も遊技機シリーズの継続的なヒットによって支えられたといわれており、制作にあたって遊技機でのIP利用という資金回収ルートが織り込まれるような流れを構築したのは『エヴァンゲリオン』シリーズといえるでしょう。
遊技機の進化とビジネスモデル
遊技機のハード面での進化(デジタル化や液晶画面の搭載)のみならず、映像制作のデジタル化の定着が、IPの展開を後押ししてきました。『北斗の拳』のようなセル画時代のアニメなどは放送時の映像が古いため、演出場面の映像はCGなどで新規制作が行われるほか、既存作品でも演出等に応じて遊技機用の映像や素材が新規に制作されることも多くあります。
デジタルでの制作が一般化した近年のアニメ作品では、本編素材を演出用に流用しやすいほか、各店舗で行うポップやポスターなどの販促物の制作においても、作品素材のデータ(ロゴやキャラクターのイラスト、演出用の素材、デザインテンプレート)が遊技機メーカーのHPや、機種運用総合サイト『フダポス』などで提供されています。
遊技の文字演出や販促素材においては豪奢なデザインのほか射幸性・興奮を煽るものが求められ、デザインの技法書では遊技機業界のトンマナについての解説やベーシックなデザイン例が掲載されています。また、本業のデザイナーでなくともPhotoshopやIllustratorなどAdobe社の定番のソフトの基本操作ができれば『フダポス』などで配信されるテンプレート素材を使って見劣りしないデザインを制作することができるので、近年はデザイン制作を外注ではなく各店舗での内製で行うケースも多いようです。
遊技機のテレビCMなども頻繁に放送されており、そこでは作品の主題歌と本編映像、遊技機の特徴に加え、前述のトンマナを踏襲し遊技業界のデザイン言語がパッケージングされ、遊技機のみならずベースとなったアニメ作品の宣伝(ウインドウの拡大)が同時に行われています。
注目したい点として、アニメ作品の宣伝の多くは番組の宣伝以外は多くの場合DVDや関連商品などのセルアイテムの紹介で、作品が放送される時間枠内に放送されます。一方、遊技機のCMでは各メーカーがスポンサードしている番組の枠内でも放送されるため、より広範囲な層にPRを行い、作品の知名度の上昇や関連商品のセールスや、動画配信での作品視聴への導線形成など、様々な複利的効果を生み出すことができます。
IP版権の利用許諾については、版元への交渉、版元からの提案、コンペに参加しての版権取得、そして製作委員会への出資参加などがあり、もっともスムーズな版権許諾の取得方法は遊技機での展開を織り込んでの制作委員会への参加や、番組のスポンサードです。
制作委員会方式や番組スポンサードはテレビ放送のアニメという、日本で独自の進化を遂げてきた形式に適したビジネス・スタイルであり、その構造が遊技機におけるIP利用の隆盛を支えているといっても過言ではないでしょう。その一方、近年ではNetflix、Amazon Prime Video、Disney+などの動画配信サービスで各サービスが出資母体となるケース(非制作委員会方式)も多くありますが、配信サービス独占配信の作品ではテレビを介した宣伝告知の相乗効果が期待できないため、それらの作品群が遊技機で展開されることは少ないのかもしれませんが、Netflixで先行配信、その後テレビ放送された製作委員会方式のアニメ『ULTRAMAN』などは、2024年に『L パチスロウルトラマンティガ』を発売した株式会社オッケー(京楽産業のグループ企業)によって、2025年に『e ULTRAMAN 2400 ★ 80』として遊技機化されています。
ドメスティックな独自路線の展開
「国内IPコンテンツのグローバルな展開」でも触れたように、新旧を問わず日本のIPコンテンツは世界市場で一層の存在感を高めています。エヴァンゲリオンもゴジラやウルトラマンのように世界的な知名度を持つIPとなっており、中国ではウルトラマンと双璧を成す人気を獲得しています。

一方国内では、遊技業界でさらに独自の展開が進んでおり、2016年に東宝の主導で行われたコラボレーション企画「ゴジラ対エヴァンゲリオン」をさらに発展させ、遊技機化したシリーズ多数制作されています。ラインナップはパチンコ機『P ゴジラ対エヴァンゲリオン~G細胞覚醒~』(2022、開発: ビスティ、販売:フィールズ )、パチスロ機『L ゴジラ対エヴァンゲリオン』(2024 )、パチンコ機『P ゴジラ対エヴァンゲリオン セカンドインパクトG』(2024 )、スマートパチンコ機『e ゴジラ対エヴァンゲリオン セカンドインパクトG 破壊神覚醒』(2024 )と、『エヴァンゲリオン』のパチンコ/パチスロシリーズを担当してきたビスティとフィールズの2社が世界的に有名なビッグIPを使ったクロスオーバーを展開しています。
スロット機は構造の関係からか、比較的シンプルな外観が多いですが、『ゴジラ対エヴァンゲリオン』シリーズのパチンコ機は派手な装飾やギミックが特色となっており、筐体写真も独特なインパクトを与えるものになっています。
パチンコ/パチスロ「エヴァンゲリオン」シリーズは、「新劇場版」の1作目から完結までの14年よりも長い20年にも渡ってシリーズが展開されており、様々な国内IPコンテンツが世界各地で人気を博している一方、遊技機業界では独特のビジネス・スタイルでIP作品を多数展開するなど、作品コンテンツの需要のみならず活用に非常に独自性の高い進化を遂げてきたことに、改めて驚かされます。
参考資料
「『コラム』パチンコと版権と監修」(新井考太, 2024年1月31日,web GREENBELT )
「タイアップ作品の歴史。初登場は〇〇年前だった」(2020年5月11日, パチンコの求人)
「パチンコ台液晶の歴史!」(2024年2月28日, 株式会社ファクト)
「漫画・アニメ版権のシェアとライトノベル版権の可能性」(2021年2月5日, Seeds Research )
「遊技機と版権について その②【版権の取得法】」 ( 2017年10月20日, パチンコパチスロ開発.com)