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アジア最大級のカメラ映像機器展示会CP+

アジア最大級のカメラ映像機器展示会CP+

2025年2月27日~3月2日まで、パシフィコ横浜でCP+ (英: Camera & Photo Imaging Show, 主催: カメラ映像機器工業会)が開催されました。本サイトの記事「日本のカメラ産業」でも触れたように、日本は世界を席巻するカメラ大国です。キヤノン、ニコン、ソニー、ペンタックス、富士フイルム、オリンパス、パナソニックといった主要なカメラメーカーや、タムロンやシグマといったカメラ用レンズを制作するサードパーティーなどは、ほぼ日本の会社で占められており、世界的なシェアの多くを先に名を挙げたメーカーの製品が占めています。

映像用のカメラ、特に放送事業ではソニーがデファクトスタンダードとして圧倒的な歴史とシェアを持っていますが、シネマ用ビデオカメラRed Oneをてがけるレッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニー(2024年にニコンの子会社化)、BlackmagicシリーズのBlack Magic Design、ALEXAシリーズで知られるドイツのARRIなど、特に映像作品や映画制作においては海外メーカーの製品が高いシェアを有しています。

海外メーカーの写真用カメラはハッセルブラッド(スウェーデン)やライカ(ドイツ)などの製品が代表的ですが、コンシューマー用途としては値の張る製品が多いためか普及率も高くありません。そのため、世界的にみてもカメラ本体のシェアは先に上げた日本のメーカーの製品でほぼ占められています。そういった背景もあり、CP+は世界各地で開催されるカメラの展示会のなかでも、主要メーカーのお膝元である国内開催ということもあって各メーカーはCP+への出展に注力しており、非常に注目度の高いイベントとなっています。

海外の主なカメラ(放送機器も含む)展示会はThe Photography Show / The Video Show(イギリス)、NAB Show (アメリカ)、CHINA P&E/中国国際写真・電気映像機械技術見本市(中国)、などがあります。

かつてはドイツのケルンで2年に1回のペースで開催されていたフォトキナが、世界最大級のカメラ展示会でしたがコロナ禍で2020年開催が中止になり、カメラ・イメージング市場の低迷のあおりを踏まえて継続開催の中止もアナウンスされたため、2018年が事実上最後の開催となりました。

2020年のCP+もコロナの影響で中止になりましたが、2021年はオンラインで開催となりました。2022年以降は通常開催へと戻り、つい先日2025年度も無事に閉幕しました。25年度の来場者数はまだ発表されていないため、2024度年の数値になりますが総来場者数は約4万人を数え、CP+は今なおアジア最大級の写真映像総合イベントとなっています。

[追記]
25年度の来場者数は5万5,791人で、前年比112%となりました。
参考: 「『CP+2025』来場者数が正式発表。リアル/オンラインともに前回より増加」(デジカメwatch, 2025年4月21日)



国内のカメラ・写真産業の展示会

現在も継続開催されている主だった展示会としては日本フォトイメージング協会主催のフォトネクスト、スタジオグラフィックス主催のフォトアクセサリーフェア(PAF)などがあります。

写真館経営者向けの展示会である「スタジオ写真フェア」がフォトネクストの前身であり、ターゲット層はコンシューマーよりも写真産業の関係者が想定されています。それゆえCP+のような最新の光学機器の展示会とは内容が少し異なり、写真館用の装飾品(調度品、壁紙など)、照明機材、フォトブックサービス、アルバ厶用品、貸衣装レンタル、プリントサービスなどの企業が多く出展しているほか、写真ビジネスに関連したセミナーや講演(例として写真館運営や出張撮影サービスについてなど)もイベント内で開催されています。

フォトネクストを主催する日本フォトイメージング協会のHPでは、「フォトイメージング市場動向(アマチュア写真の出力ビジネスの市場規模)やフォトブック市場予測」が公開されています。カメラ産業を考える際はどうしても光学機器に目がいってしまいますが、総合的なビジネスとしてカメラ産業を考える際にはプリントの出力や七五三や成人式の前撮り、フォトウエディング、写真館ビジネスの主力商品であるフォトブックの市場動向は見落とせない要素となっているので、写真産業には関わりのないエンドユーザーであれど業界動向に興味をお持ちの方は、一度フォトネクストに足を運ばれると知見を広められると思います。

フォトネクストがビジネス向けであるに対し、フォトアクセサリーフェアはプロやアドバンスド・アマチュアのカメラマン、いわばハードコアなユーザーを主要ターゲットにしています。そのため、展示されるアイテムやイベント内で開催されるセミナーなどは撮影に活かせるものや実践的なものが多く、イベントによる特色の差異が非常に大きくでています。

CP+は土日を含めた4日間(初日12時まではプレス・VIP招待者向け)という長期日程での開催で、ビジネスユーザーとコンシューマーの双方や、カメラにそれほど興味のない一般層、親子連れなども含めたライトユーザーも対象にしています。ターゲット層から見て、CP+はフォトネクストとフォトアクセサリーフェアの中間的なイベントであり、それに加えて主要なカメラ・レンズメーカー各社が現行モデルや最新機器の展示を行うため、国内のカメラ産業の総体的なイベントともいえます。

CP+2025についての雑感

CP+で注目を集めるのは、やはり各カメラメーカーの最新機器です。デジタル一眼カメラがレフレックス機から現在の主流であるミラーレス機に本格的な移行が始まり、先達のソニーに遅れをとっていたキヤノンとニコンが本腰を入れて続々とミラーレス機を発表した頃が特に盛り上がりを見せていた記憶がありますが、今年はユニボディ(アルミ削り出しによる継ぎ目のない筐体・フレーム)かつミニマルなデザイン性が話題になったシグマの新型カメラ「Sigma BF」の実機が展示されるほかは耳目を集めるプロダクトは少なかったように思えます。

主要商品がレフレックスカメラからのミラーレスカメラへの移行が完了した今日では、カメラメーカーのブースでは多機能・高性能なコンパクトカメラや、動画撮影機能を売りにした商品(ソニーのVLOGCAMのようにVlogなどの動画用途を強化したキヤノンの「Power Shot V1」など)や、ハイペースで開発・発表されているミラーレスカメラ専用レンズなどが目立っていました。

レッド社を子会社したことによって映像方面へのアドバンテージを急速拡大させたことが話題を呼んだニコンは、レッドの名前を前面に出したビデオクリエイター向けのブースを大きく展開し、ソニーやキヤノンのように映像用カメラの開発ノウハウを蓄積する同業他社とは異なるアプローチを行っていたことが印象的でした。

CP+の名物ともいえるのが、動きものやスポーツに強いカメラを使って競技やパフォーマンスの撮影体体験で、今年はソニーブースでは剣道、キヤノンブースではバスケットボールのデモンストレーションが披露されていました。 

最新機材の展示だけでなく、各メーカーの過去・現行プロダクトが展示され、メーカー各社の歩みや特色がPRされるのもCP+の見どころです。ソニーブースでは現行のシステムラインナップがずらっと並べられ、富士フイルムのブースでは国立科学博物館の重要科学技術資料にも登録されたフィルム「フジカラーF-II400」(1976年10月発売)や、1987年発売の「写ルンですHi 」など年代物の製品が展示され、フイルムや写真文化が同社の事業やコーポレートアイデンティティの核にあるということが、改めて強調されていました。


日本のカメラ産業」の中でも、中国のメーカーがカメラアクセサリ(レンズフィルター、アダプタ、照明用アクセサリ)やストロボやLEDライトなどの照明機材の展開で勢いを増していることについて触れましたが、今年のCP+では例年以上にGODOX(中国)、NEWEER(中国)、焦点工房(中国)、K&F CONCEPT(中国) 、SMDV(韓国)など、中韓ブースの存在感が増しているという印象を受けました。

ストロボなどの照明機材はカメラメーカーの純正品やプロペットやコメットなどの国産メーカーよりも、GODOXやスウェーデンのProfotoがプロ・アマを問わず広く使われていますが、カメラ本体やレンズは依然として国内メーカーが圧倒的な優位性を持っています。ですが、写真や映像を支える周辺機器は中国メーカー(特にGODOX)の活躍が目覚ましく、SNSで流れてくる海外フォトグラファーの撮影風景動画でも、GODOXのストロボとソフトボックスを目にする(カメラは大抵の場合キヤノンかニコンかソニー)ことが非常に増えていることをみると、近年は日本を含めたアジア圏の製品が、写真や動画といったイメージング産業をグローバルに牽引していることに気付かされます。


フォトキナ継続開催がなくなって以降、開催規模的にも新製品のお披露目という場という点でもCP+はこれまで以上に国際的な注目を集めており、SMDVやGODOX、焦点工房といったアジアのメーカーが実機を展示し、特に日本国内での認知を広げるプロモーションの場としてより広く活用されていくと思われます。

また、今回のCP+でもっとも興味を惹いたのはタムロンのブースでした。2023年のCP+では「お祭り」をテーマにし、同社の国内工が青森にある縁でねぶたを展示して話題を呼びましたが、今回は70周年を迎えた御長寿IPゴジラとのコラボが展開され、会場内でも異彩を放っていました。

CP+は2014年頃から毎年通っていますが、(ブースの見落としがなければ)世界的に有名なIPとコラボした企画をCP+で展開した例は記憶になく、今回のタムロンが初めてにケースかもしれません。

タムロンのHP上ではゴジラとのコラボやブースイメージも発表されていましたが、現地へいってみると大掛かりなジオラマや、大きなゴジラと機龍(メカゴジラ)が存在感を放っており、マクロ撮影に長けた同社のレンズでジオラマ撮影を体験できるなど、製品の特徴をしっかりPRしつつ、一般層にも展示イベントを楽しんでもらうための創意工夫が凝らされているという点もフォトネクストやフォトアクセサリーフェアとの大きな違いで、親子・子供向けのコンテンツを配したブースなどもCP+の特色です。

2026年のCP+は2月26日~3月1日、会場はこれまでと同様パシィコ横浜での開催が発表されているので、カメラのユーザーではないが写真産業に関心のあるという方や、家族連れでも楽しめるイベントに行ってみたいという方は、横浜観光なども兼ねてぜひ来年のCP+に訪れてみてはいかがでしょうか。


[参考資料]

世界のカメラファンが集う『CP+』に初占潜入! 話題の最新機種をじっくり体験してきた!」(田中利幸, 2025年3月4日,YAHOO!ニュース)

タムロンCP+2025において『ゴジラ』とのコラボレーションブースを展開」(株式会社タムロン, 2025年2月10日)

ニコンが買収を発表した映像機器メーカー『RED Digital Cinema』とは?」(Gigazine, 2024年3月8日)

ケルンメッセ、『フォトキナ』の主催を当面中止。事実上の終了宣言に」(鈴木誠, 2020年11月27日, デジカメWatch)




鈴木 真吾

鈴木 真吾

2023年3月よりインハウスクリエイターとして写真・映像撮影および編集、グラフィックデザイン、DTPなどを担当。専攻は文化社会学、表象文化論等。

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