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【2023年版】オラクルの事業概要と市場における位置付け

【2023年版】オラクルの事業概要と市場における位置付け


※本記事は2023年度のデータに基づいた内容です。

また、弊社HPではFY2025 Q1 までの四半期決算を基にしたアップデート版「オラクル(MDY:Baa2、S&P:BBB、Fitch:BBB)の事業概要と同社のクレジット投資評価」(2024年20月4日)を公開しております。

よろしければ、そちらもご参照ください。



本記事では、米オラクル社の事業概要やクラウドサービス市場の特徴について解説いたします。

オラクルは米国市場への依存度を高めていますが、グローバルに世界のブロック経済化が進む中で、米国内での情報保全の重要性も増しており、当面の間は、高付加価値なサービスを提供するオラクルの米国市場における競争力は維持されやすいと考えられます。

しかし、10年を超える長期の債券保有を検討する場合には、他地域でのクラウド市場が成長する中で、オラクルの相対的な競争力が徐々に弱まりやすい状況になっていくことに注意が必要です。

内容は5VAアナリスト・レポート「オラクル(MDY:Baa2、S&P:BBB、Fitch:BBB)の事業概要と同社のクレジット投資評価」(5バリューアセット チーフ・インベストメント・ストラテジスト  上田祐介、2023年10月2日)をベースに、企業のビジネス・モデルや世界市場の特徴などをご紹介します。

アナリスト・レポート本編は詳細なデータを交えたテクニカルな内容になっておりますので、興味を持たれた方はぜひそちらもご参照ください。

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オラクルの事業概要

テキサス州に拠点を置くオラクル(Oracle Corporation)は、企業の情報管理用ソフトウェア(データベース管理システムなど)を手掛けるソフトウェアメーカーで、ソフトウェアメーカーとしてはマイクロソフトに次ぐ世界第2位の企業です。

同社製品は売切りではなく継続的なサービスとして提供されており、主な製品はリレーショナルデータベース、サーバー、アプリケーション開発、意思決定支援ツール、そして業務用アプリケーション等です。その他にも、ネットワーク・コンピュータ、PDA、セットトップボックス、パソコン、ワークステーション、ミニコンピューター、メインフレーム、大規模並列処理コンピューターといったハードウェアも提供しています。

同社のビジネスのおけるセグメントは主に4つに分かれ、コア事業は企業アプリケーション及びインフラ技術のサービスをクラウド(外部機関の提供するサーバー)お介して提供するサービスです。その他は、データベース等のソフトウェアを使用するためのライセンス提供や、ハードウェアやソフトウェアの技術提供・サポート、アプリケーションやインフラ技術もパフォーマンスを最適化するサービス提供になります。

同社の売上高のコアとなるのはクラウド関連事業で、ハードウェアやサービス分野は横ばいの傾向を示しています(下図参照)

クラウドサービス市場における位置付け

クラウドサービスは現代では非常に身近なものとなり、個人向けオンラインストレージではDropbox、iCloud、One Drive、Amazon Drive、Google Driveなどが一般層向けとして親しまれ、3大クラウドサービスとしてAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azureもその名が広く知られています。

クラウドサービスはインターネットを介して仮想サーバーを利用するサービスで、物理的なサーバーを自社やワークスペースに構築する手間やコストを削減することができます。

AWSを例にすると、契約ユーザーはAmazonが提供する大規模なサーバーを使用し、サーバー環境の構築、コンテンツの配信、AI活用/データ分析、データベースの構築、プログラムの実行などを行えますが、Amazonの所有するサーバーを間借りをしているという形になるため、同社のサーバーが技術的な不具合を起こした際は、AWSに間借りしているwebサービスも不具合の影響を受けてしまいます(これはAmazonに限らずで、Google Driveを利用している事業者は、Googleのサーバー不具合が発生すると業務が進行できなくなるといったケースもあります)。

下図はクラウドサービスの分類になります。下部の「インフラ」(IaaS / Infrastructure as a Service)は、端的にいってしまえば間借り用のスペースのため、クラウドサービスの提供する技術を使いながら、契約者が目的に応じたサーバー環境を構築していきます。

インフラ分野は装置産業であり、大規模投資を行い高いシェアを低コストで確保することで優位性を確保する必要があり、アマゾンの提供するAWSなどが該当します。これに、ユーザーが自分でアプリケーション開発を行うプラットフォームミドルウェアなどを加えて提供されるサービスがPaaS(Platform as a service)と呼ばれる中付加価値サービスとなります。

 

さらに、アプリケーション・ソフトまで運営者が提供しユーザーはアプリケーションの範囲内に限定された使用が可能な機能を提供するのがSaaS (Software as a Service)と呼ばれる高付加価値サービスで、プラットフォームとアプリケーションが使用可能な状態で提供され、専門知識や環境開発も手間を省略できるというメリットがあります。

オラクルの得意とするデータベース管理システムと一体のクラウドサービスも主にSaaSに属しており、インフラ構築とソフトの開発を一社で担っているという点が、AWSとオラクルを比較した際の専門的な優位性や価値付けとなります。 

SaaS市場における位置付け

最も市場規模の大きいSaaS-Applicationの中では、オラクルは世界3位のシェアを持ち、さらに同社の売上高は前年比で34.7%の増収と、上位2社よりも大きい増加幅となりました。この結果FY2021からFY2022にかけて市場シェアは前年度より+0.2ポイント増の3.4%に伸び、SAPを抜いて3位に浮上しました。ただし、オラクルの後を追うSAPとGoogleも売上高を順調に伸ばしており、同2社はオラクルと近い水準の売上高を計上しています。

SaaS-ApplicationはIaaSなどの汎用的なクラウド形態とは異なり、アプリケーション・ソフトウェアとそれを稼働させるためのプラットフォームやインフラまで一貫して提供しているサービスのため、SAPやGoogleとオラクルでは事業が競合せず、オラクルのシェアと付加価値が脅かされることはないと考えられます。

オラクルのデータベース・エンジンと競合しやすいもとして、オープンソースのデータ管理システムMySQLなどですが、これらが競合するのはPaaS分野であり、SaaS市場ではオラクルの市場優位性は維持されやすい、と考えられます。

ただし、高成長を続ける市場でシェアを維持するためには、価格競争力も重要な点であり、同社が現在行っているリストラクチャリング・プランによって、より効率的な収益構造への変革を進める必要があります。

地域別の売上

オラクルの地域別売上の傾向を確認してみましょう。地域別では、米国における売上高構成比が62.5%を占めており、過去3期の推移を見ても地域構成の順位自体は変わっていません。米国が首位、次いで欧州/中東/アフリカをまとめたEMEA(Europe、the Middle East、Africa )、そして残りをアジア諸国が占めていますが、売上高の成長は、専ら米国国内に起因しており、米国での売上構成比は年々上がっています。その一方、欧州/中東/アフリカ地域の売上高は横ばいで、アジアの売上高はわずかではあるが減少しています。

米国でのクラウドの成長が進むことで、オラクルの成長も継続しやすいものにはなりますが、その一方で他地域でのクラウド市場が成長する中では、オラクルの相対的な競争力は徐々に弱まりやすい状況になっていくと考えられます。

とはいえクラウドサービス市場は拡大を続け、オラクルも売上高やシェア率を拡大し、より安定したビジネスを構築しています。また、同社は事業構造の再編に取り組んでおり、今後より効率的な収益構造を築けといった見通しが立てられています。また、グローバルに世界のブロック経済化が進む中で、米国内での情報保全の重要性も増しており、当面の間は、オラクルの米国市場における競争力は維持されやすいと考えられます。




レポート本編では、オラクル、財務の推移など、本記事では省略した詳細な情報を記載しておりますので、よろしければご覧ください。

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上田祐介

上田祐介

5バリューアセット株式会社 副社長兼インベストメント・ストラテジスト。1991年より大和総研でキャリアを開始。2001年より複数の欧州系・米系大手投資銀行でクレジット関連業務を担当。2010年よりメリルリンチ日本証券の、2017年からは三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ・クレジットストラテジストとして国内外のクレジット市場の調査チームを統括。日経ヴェリタス等の外部顧客評価で実績を上げる。

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