本記事では日本たばこ産業を例に、その事業展開や世界各国の市場における地域別の売り上げ推移などを分析します。
内容は5VAアナリスト・レポート「日本たばこ産業(2914)の事業概要と、同社株式の長期保有上のポイント」(5バリューアセット チーフ・インベストメント・ストラテジスト 上田祐介、2023年10月10日)をベースに、企業のビジネス・モデルや世界市場の特徴にフォーカスした内容です。
アナリスト・レポート本編では日本たばこ産業の損益・財務推移や、信用格付け、投資評価などの詳細データを掲載してありますので、興味・関心を持たれた方はぜひそちらもご参照ください。
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日本たばこ産業の概要
JT(Japan Tobacco)の略称でも知られる日本たばこ産業(以下日本たばこ)は東京都港区に本社を構え、主としてたばこ・タバコ関連製品の製造、マーケティング及び販売に従事するたばこメーカーで、1985年に日本専売公社の事業を引き継いで設立されました。
同社は世界各国で事業を展開しており、たばこのみならず医薬品事業及び食品事業も手掛けているほか、たばこ市場上位8社のうち5位のシェアを有すなど、安定的な立ち位置あります。
日本たばこは売上高の91%をたばこ事業、5.9%を加工食品事業、3.1%を医薬品事業が占めています。その一方、営業利益では97.8%がたばこ事業ですが、これは加工食品事業の売り上げが低いことに起因しています(下図参照)
地域別の市場概要
日本たばこの収益の9割以上はたばこ事業によるものであり、たばこ製品は世界各国に展開しています。販売量の推移を詳しく捉えるために、地域別売上を確認してみましょう。
下記の図は地域別のたばこ事業の売上高を示したもので、図を参照すると主な地域区分は以下の3つに分類できます。
(i)アジア:日本、台湾、フィリピン等
(ii)西欧地域:イタリア、英国、スペイン等
(iii)EMA:アフリカ、東欧、トルコ、南北アメリカ大陸、ルーマニア、ロシア及び全免税市場
同図が示すように、一見するとEMA(Europa / Midde East /Africa)での売上シェアが大きく見えますが、ここには多くの国が含まれており、その内実は先進国と途上国で大きく異なります。その一方、日本たばこが単一国で多くの売上を計上しやすい主要市場と認識しているのはアジアと西欧地域です。 2022年度アジアの売上高は8,049億円(前年比+1.6%)となり、総売り上げに対する割合を依然として占めているものの、成長は鈍化しています。その原因は、たばこ税の増税による日本国内での製品値上げが需要の鈍化に影響したことや、フィリピンでの度重なるたばこへも消費税増税値上げに伴う需要減少が要因と考えられます。
※2021年10月の一斉値上げでは、国産たばこの代表的銘柄であるハイライト(hi-lite)を例にすると490円から520円に。また、2020年にも450円から490円に値上げされました。ちなみに、2010年10月のたばこ税増税時の価格は410円で、2000年の段階では250円でした。
西欧地域での売上高は、地域別では最も小さい割合となっているものの、5,388億円(前年比+7.1%)と着実な成長を続けています。特に英国ではRMC(Ready-Made Cigarettes / 紙巻たばこ)及びFCT(Fine Cut Tobacco / 手巻きたばこ)カテゴリー におけるマーケットリーダーとしての地位を強固なものにし、プライシング効果も発揮しており今後さらに堅調な市場シェアが加速すると考えられます。
EMAは、アジアと西欧地域以外の諸国全てがまとめられた区分であることから、最も高い売上を占めています。Camelが牽引したルーマニア国内での販売量の増加や、トルコでの増税値上げ前の在庫拡充等による総販売量が大幅に増加といった需要増を踏まえ、前年比+42%の売り上げとなりました。しかし、次年度には販売傾向の正常化で反転・減収となる可能性もあります。
製品別の概要
日本たばこの製品別の事業状況は地域によって異なっています。これらの収益力の特徴を捉えた上で、年間のたばこ製品の販売本数と比較してみましょう。なお、同社のたばこ製品は、下記の二種類に大別して比較を行います。
燃焼式はいわゆる一般的なたばこで、リスク低減製品は加熱式たばこ/電子たばこと呼ばれることの多い製品です。種類別の販売本数を見てみると、僅かな増減があうものの、売り上げ本数では燃焼式がリスク低減製品を圧倒しています。
今後の成長性を加味した場合、市場規模の大きい燃焼式たばこは新興国市場や免税市場(EMAにあたる地域)を中心に増加しているものの、英国(西欧地域)、日本・フィリピン(アジア)、ロシア(EMA)等の主要市場において総需要が減少したことで前年比-1.5%との数値を示しました。一方、まだ市場が成長過程にあるリスク低減製品は、主に日本のPloom Xによるシェアの伸張によって、前年比+11.3%と拡大を見せました。
たばこ事業の売上高は、前年比+15.7%で増加しているにも関わらず、販売本数を確認すると前年比‐1.4%と減少しています。総販売数が減少したにも関わらず売上高が増加したのは、単価の高いPloom Xをはじめとするリスク低減製品の販売増加量が、相対的に単価の低い燃焼式たばこの減少幅を上回った結果と考えられます。
日本たばこ事業の収益性を伸ばしていくためには、先進国での燃焼式たばこ需要の鈍化と新興国市場でのさらなる売上高の拡大と、単価の高いリスク低減製品の販売拡大に先進国市場で取り組んでいくことが重要となります。
世界のたばこ市場と日本たばこの市場シェア
前章で確認したように、日本たばこの売上高の多くを占める主力事業は、世界各国で展開されるたばこ事業です。ここでは、グローバルのたばこ市場とその成長性に関する現状を確認してみましょう。
下図には、たばこ市場における上位8社の売上高推移を示しました。日本たばこは2018年度からは市場シェア5位を保っており、安定したプレゼンスを維持しています。市場全体の推移を見ると、2017年末にImperial Brands PLCが大手リキッドメーカーであるネルディアを買収したことから、2017年から2018年にかけて上位8社の売上高が大きく伸長しました。その後も売上は若干増加傾向にありましたが、2021年から2022年にかけては、たばこに対する規制や税制が適用され、各社合計の総売上高には減少傾向が見られました。
次に、世界全体での国別のたばこ総消費量を見てみましょう。2022年には5.3兆本のたばこ製品が売れていました。最大のたばこ市場は中国であり、総需要の40%超を占めていますが、中国市場は同国の専売企業の中国国家煙草総公司が販売を独占しているため、他国のたばこメーカーにとっての実質的な主要市場はインドネシア、ロシア、アメリカ、日本等になります。
ですが、成熟市場である日本、アメリカ、ロシア、インドネシアにおける消費量は減少傾向を辿っています。一方、パキスタン、インド、エジプト、ブラジルなどの新興市場では総需要が増加傾向にあり、経済成長に伴って需要が高品質・高価格帯商品へ移行する傾向もみられます。
今後、世界全体での燃焼式たばこへの需要はわずかながら減少傾向を続けると日本たばこでは予想していますが、その一方で新興市場の拡張とそこでの高価格帯商品への需要の移行、そしてリスク低減商品の主要市場(米国、日本、イタリア、英国等)の需要拡大も、併せて想定され、日本たばこでは、これらの市場の質的変化に対応した商品構成やマーケティング戦略をとることで、同社の売上規模の増収傾向を維持できると考えています。
日本国内では健康増進法などの影響で喫煙に対する風当たりは厳しくなっていますが、マクロな視点で見ると、たばこ製品の堅調な売り上げが確認できます。電子たばこ/リスク低減製品についても、シェアとしての規模は僅かながらも日本たばこのPloom(2013年発売)、フィリップモリス社のiQOS(アイコス、2014年発売)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のglo(グロー、2017年発売)のほか、様々な製品が続々と登場しています。
リスク低減製品に健康被害についての議論も多々ありますが、先進国では単価の高いリスク低減製品への移行する動きが着実に見られますが、燃焼式たばこが圧倒的な主要製品である途上国を含む新興市場の存在が、日本たばこの安定的なビジネス・モデルを支えています。
レポート本編では、日本たばこの損益、財務の推移など、本記事では省略した詳細な情報を記載しておりますので、よろしければご覧ください。
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