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写真フィルムの高騰はいつまで続く?

写真フィルムの高騰はいつまで続く?

物価の値上がりが続く昨今ですが、ここ5、6年でじわじわと値上げが続き、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった頃を境にさらに急な高騰を見せ、愛好者の財布を苦しめている商品があります。

それは、タイトルにある写真フィルム(一般的な35mmカラーネガ)です。

2023年も値上がりが相次ぐ


2023年現在もフィルムや写真用品の値上げが続いており、1月にコダックアラリス(旧:イーストマン・コダック)、6月には富士フイルムから一部商品のさらなる値上げが発表されました。



コダックと富士という2大メーカーだけでなく、オーストリアのロモグラーフィシェが展開する「ロモグラフィー(Lomography)」シリーズも、2023年4月にさらなる値上げがアナウンスされました。

フィルムの高騰以前は、独特な発色と比較的手頃な値段で愛用していた「ロモグラフィー」ですが、2大メーカーのフィルムよりも早い段階で値段が跳ね上がり、ISO400カラーネガ3本パックが1,800円ほどだったものが3000円近くに急騰したことに驚かされましたが、今回の値上げを経た現在価格は、Amazonで6,280円となっています。

主要フィルムの価格帯

現在の写真フィルムの価格を見ていきましょう。

ヨドバシ.comでネガフィルムを検索してみると……(2023年10月現在)

コダック「Color Plus」 (ISO 200)の36枚撮りが1,440円(取り寄せ)、「UltraMAX400」 135 36枚撮りが2,100円(取り寄せ)という価格帯になっています。

在庫あり商品では、富士フイルムの「FUJICOLOR 100」 36枚撮りが1,540円、そしてリバーサルフィルム「PROVIA 100」に至っては3,960円となっています。余談ですが、筆者が初めて「PROVIA」を買った頃は1,280円ほどでした。

[画像出典] フジフイルムモール

写真フィルム需要の衰退

デジタルカメラが主流になる以前は、インスタントカメラと写真フィルムが色んなところで売っていた記憶があるほか、100円ショップにもカラーネガフィルムが並んでいたという話も耳にしたことがあります。しかし現在では、写真・カメラ専門店や大手家電量販店などでしか写真用フィルムを見かけなくなりました。

フィルムカメラとデジタルカメラの入れ替わりは2000年代頃からはじまり、2010年頃にはデジタルカメラが業務に耐えうる性能に達し、フィルムとデジタルが急速に入れ替わったといわれています。

富士フイルムホールディングスの2018年度イメージングソリューション事業説明会の資料に、カラーフィルムの需要推移についてのスライドがあり、デジタルカメラの普及とフィルム需要の減少の関係性が如実に見て取れます。

[画像出典]  2018年度イメージングソリューション事業説明会 資料


急激な需要減少を受けつつも2010年代も根強く販売されてきた写真フィルムですが、新宿のヨドバシカメラ本店の店頭でさえもフィルム売り場や印画紙などの写真用品売り場はどんどん縮小し、多くの銘柄の品切れ・入荷待ち状態が続いています。

フィルム高騰以前の価格帯

筆者が本格的にフィルムカメラに触れたのは、知人の写真家からニコンF501を借りた2016年末頃で、その当時はコダックのモノクロフィルム「Try-X 400」の36枚撮りが980円程度だったと記憶しています。

ちなみに、「Try-X 400」ですが、2023年10月時点での価格は、ビックカメラ.comをみると2,900円となっており、使用当時は680円だったオリエンタル「ニューシーガル100」は現在価格1,190円と、モノクロフィルムの価格上昇はカラーネガに比べれば緩やかな動きをみせています。

需要の衰退はあれど、当時はフィルム(カメラ)ブームの後押しもあり、カラーネガフィルムは500-700円程度という手頃な価格帯で、アグフア(ドイツ)の「AGFAPHOTO VISTA+100」や、カメラのキタムラ新宿西口店の店に設置されたカゴに積まれていた富士フイルムの「記録用カラーフィルム」(パッケージを簡素化した低価格商品で、通称は「業務用フィルム」)をよく使っていました。

[画像出典]  Amazon

国内でのフィルムブームは、『フィルムカメラスタイル』(ヘリテージ、不定期刊行)の第1号が2016年12月に刊行され、『フォトテクニック デジタル』(玄光社、2021年7月で休刊)2017年4月号でフィルムカメラをデジタルカメラのように楽しむ「フィルデジ」の特集が組まれるほか、ロモグラフィーのサイトでも、2016年10月25日付で「フィルムカメラブーム再来の謎に迫る」という記事が公開されたことからも、2010年代後半頃から盛り上がりを見せていたように思います。

相次ぐ値上がりと生産中止

アグフアのフィルムが店頭から姿を消し、2018年~2020年にかけて富士の「記録用カラーフィルム」の生産が終了し(ISO400が2018年、ISO100が2020年頃に終了といわれています)がなくなる一方、富士フイルムの逆輸入品「FUJICOLOR C200」やコダック「Color Plus」が680円程度の価格帯で店頭に並び、しばらくはそれらを常用フィルムとして使っていました。

ふと気づけば「Color Plus」が880円程度に値上がり、輸送費や原材料の高騰が話題になり始めた頃にフィルム売り場を覗くと、1,200円を超える値段になっていたことに驚きました。

次に、写真フィルム高騰の参考としてAmazonでの「Color Plus」の値段推移を見てみましょう(23年10月10日時点)。


出品業者が複数ある関係で値段の上げ下げに幅がありますが、2020年4月の最低価格は660円でした。また、2021年1月に840円を記録していますが、同年1月にコダックの価格改定があったため、その影響をダイレクトに受けての値上がりと考えられます。



実は、前年の2020年にもコダックは値上げを発表していました。

しかし、同年の値上げはフィルム需要の増加に応えるため、生産体制強化の投資を行うので、それに伴うポジティブな値上げであるというアナウンスがありました。

2021年の値上げ理由にも投資が含まれていましたが、その後は22年、23年と、特に燃料費や材料費の高騰を背景にした毎年の値上げが続いており、生産強化への投資成果が表れるにはまだまだ時間がかかりそうです。

Amazonでの価格推移にもどりましょう。21年1月の値上がり後は、下がり上がりを繰り返し、2022年1月に再び840円になりました。

ウクライナ侵攻が始まった2022年2月から価格が急上昇しはじめ、現在は1,690円に落ち着いていますが、不安定な世界情勢の影響もあり、再度の値上がりはありえると思います。

復活の兆しはある?

見てきたように35mmフィルムは2023年なっても値上がりを続けており、需要に対して適切な価格帯での供給が難しい状態です。

加えて、フィルム価格の高騰は現像サービスの需要の停滞へと繋がり、現像に使う薬品の価格上昇や機器のメンテナンスなどの理由から、現像費用の値上がりという負の連鎖を招いています。

フィルム以外でも身近な品々の値上がりが続く昨今の状況では、フィルム価格はまだ上がるだろうが、下がる期待が持てない……という状況です。

とはいえ、2021年頃から国内でフィルムブームが再燃しているような記事が散見され、2023年においてもフィルムブームのニュースが断続的に報じられています。







その中ではリコーイメージングが「ペンタックス」ブランドを掲げてフィルムカメラへの(再)参入が報じられるほか、富士フィルムのロングセラー「写ルンです」や国内では「チェキ」という商品名で展開されている「instax」シリーズの好調にも触れられています。

[画像出典]  2018年度イメージングソリューション事業説明会 資料

上図は2018年のグラフですが、値上がりと消費の落ち込みに晒されるカメラ用の35mmフィルムを取り巻く状況に対して、富士フィルムの2大看板商品、特にinsataxはグローバルな展開で市場を開拓するなど、(インスタント)フィルム写真の人気を証明しています。

度重なる値上がりを受け、フィルムの需要は落ち込むどころか、国内のブームを伝える記事にあるように若者を中心に高まりを見せています。

そういった状況に対応できるような、これまでの35mmフィルムの代替品になる新たな製品の登場や、コダックの投資の効果が表れるまでは、フィルムはまだ今しばらく高価な嗜好品の位置を占めそうです。


▽参考webサイト / 記事

・「いつか来る、写真フィルムの死



・「まとめ| 最近の富士フィルム値上げと販売終了について

・「フィルム市場喪失をDXで乗り越え成長した富士フイルム」(日経クロストレンド)

▽関連投稿

・「日本のカメラ産業




鈴木 真吾

鈴木 真吾

2023年3月よりインハウスクリエイターとして写真・映像撮影および編集、グラフィックデザイン、DTPなどを担当。専攻は文化社会学、表象文化論等。

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