5バリューアット株式会社は、日本のIFA(金融商品仲介事業者)を変えたいとの理想の下に、代表斉藤彰一が立ち上げた企業です。
当社ではお客さまと社会に役立つ存在を目指し、経営哲学・理念の共有や、精神性の修養に努めるべく、外部講師をお招きしての社内勉強会を定期的に催しております。
以下では、当社が開催した社内勉強会についてご紹介させて頂きます。
2026年5月22日、第11回オフサイト研修を開催しました。今回は福井県越前市 環境農林部 農政課課長の高橋良孝さんにお越しいただき、「日本の農業と越前市の農業について」という演題でお話をいただきました。
越前市では今年の2月に平林 透さんが新市長に就任されました。平林さんは弊社代表 斉藤彰一の高校の先輩で現在も定期的な交流を続けており(詳しくは2026年5月の代表レターをご参照ください)、そのような縁があり今回の研修では高橋さんにご登壇いただく機会に繋がりました。


越前市について
2005年に武生と今立郡今立町が合併して発足した福井県越前市は県の中央部に位置し、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥といった工芸品などが知られています。
人工は約8万人(令和8年12月時点)、市の花は桜、シンボルが菊(10-11月にかけて菊祭り「たけふ菊人形」を開催)、市の鳥はコウノトリで、「コウノトリが舞う里づくり」のイメージキャラクターとしてコウノトリを模した「えっちゃん」などが展開されています。
2025年には「ユネスコ創造都市ネットワーク」に伝統産業に関連した「クラフト&フォークアート」分野で加盟を果たすほか、工芸品の越前打刃物はドラマ『グランメゾン東京』(2019)などでも取りあげられています。

20251010-P1074062.jpg)
食ではたけふが発祥地とされる「越前おろしそば」、「中華そば(「たけふ駅前中華そば」とも呼ばれる)」、「ボルガライス(洋風かつ丼)」が越前市の三大名物のほか、旧越前国府が紫式部のゆかりある地であるため、大河ドラマ『光る君へ』(2024)のロケ地としても使われたそうです。
越前市内には、駅周辺に農地が広がる光景が特徴的な北陸新幹線の新幹線えちぜんたけふ駅(2024年3月16日開業)があり、駅舎のデザインは市のシンボルであるコウノトリモチーフがモチーフになっています。
コウノトリと越前市

越前市周辺のコウノトリは昭和30年代に絶滅(国内での野生のコウノトリは1971年に絶滅)したと考えられていましたが、昭和45年(1970年)12月に、白山・坂口地区にコウノトリ(愛称「コウちゃん」)が飛来し、日本で最後のコウノトリの生息地であり人工飼育場を構える兵庫県豊岡市の保護施設に移送され、飼育・繁殖が行われました。
2010年に再度コウノトリが飛来し、野外定着にむけた飼育事業が県の主導で行われるようになり、現在はコウノトリの定着・自然繁殖が進められ、令和元年から7年までの間に連続して33羽が巣立ちし、令和8年も営巣が確認されているそうです。
有機栽培(オーガニック)を地域の特徴的な農業として推進する越前市では「コウノトリ呼び戻す農法米」という生産するほか「コウノトリが舞う里づくり」というキャッチコピーを掲げ、コウノトリをシンボルとした情報発信が精力的に行われています。
高橋さんのお話には登場しませんが、コウちゃんが移送された兵庫県豊岡市では1963年からコウノトリの人工飼育を行っており、豊岡市と同市を担当するJAたじまの取り組みは久保田治己さんの『農協が日本人の“食と命”を守り続ける!』(2024, ビジネス社)の第1章「コウノトリとJAたじま」で、無農薬栽培や生物多様性を維持する水田の工夫と合わせて詳述されています。
1994年には「コウノトリを野生に帰すこと」「野生復帰の拠点を作ること」を盛り込んだ基本構想が、学識経験者や豊岡市の関係者を中心とした「コウノトリ将来構想調査委員会」から発表され、稲刈り後の水田に冬から春にかけ浅く水を張る「冬季湛水」の実施、「中干し」の延期、「魚道」(用水路と田んぼを繋ぐ魚用の通路)の設置などの工夫によって、様々な生物が共生する場(コウノトリなどの餌場にもなる)を田んぼに作り、2005年にアイガモ農法とは異なる無農薬栽培の「コウノトリ育む農法」が確立されました。
越前市の「コウノトリ呼び戻す農法」は豊岡市の「コウノトリ育む農法」を手本としており、高橋さんのお話の中で紹介された有機栽培農法でも、「冬季湛水」や「魚道」などが登場します。
農法の確立後、豊岡市では有機栽培の「コウノトリ育むお米」が特産品として展開され、豊岡市を管轄するJAたじまは、生産コストの高い「育むお米」を2倍ほどの価格で買い上げることで農家の収入安定に協力し、「育むお米」は2015年のミラノ万博の日本館で使われるお米として輸出されたほか、消費者意識の高まりから人気を博して供給が需要に追い付かないという状況も生じたそうです。
日本の農業を取り巻く状況
越前市の特色などの紹介に続いて、日本の農業を取り巻く現在的な状況についてお話いただきました。まず、話に上がったのが異常気象の増加です。
2026年の4月には最高気温40℃以上の日を指す新たな予報用語「酷暑日」(「猛暑日」は35℃以上)が決定され、5月ではすでに各地で夏日が観測され、スーパーエルニーニョの発生予測と今夏に「酷暑日」が多くなる可能性などが報じられるなど、温暖化に伴う気温上昇が異常気象の中で顕著なものとなっています。
オフサイト研修の数日前の東京は夏日でしたが、当日は少し肌寒さを感じる曇天であるのに対し、5月にも関わらず34℃近くを記録(全国で4番目の暑さ)した福井県は当日も夏日だったそうです。
福井ではこれまでより大雨の頻度が増えており、20年、30年周期の降雨に合わせてインフラを整えてきましたが、近年はさらに頻度が増えているそうです。その一方、昨年の猛暑では福井県内でも水不足が多く発生し、農家さんから「田んぼに水が張れない」という声もあがっており、そのように極端な気候状況が続くと安定した食糧供給が困難になると高橋さんは述べられます。
加えて、世界人口の爆発的な増加で人口に見合った生産体制が崩れかけている点も指摘されました。各国は需要に応じた食糧を生産しますが、人口増加によって需要が見通せない状況になっています。日本の食糧事情は海外からの輸入依存が続いていますが、自国の食糧自給に不安を抱いた生産国が自国向けの食糧を優先的に確保することで、日本への輸入も危惧されることになります。
予測の範疇ではありますが、日本は人口減少や高齢化で農業の担い手が減少し、食糧の生産力も下がっていくことが見込まれており、それによって食品の安定供給や価格への影響が大きくなる中で、食糧自給率や持続可能な農業をどう進めるかが課題となっていると、高橋さんは指摘されます。
農家の人口減少
農家の人口は8万人を割って全国的にも減少傾向であり、食糧自給率のさらなる低下が懸念されています。全国の農業人口は20年で半減し、年齢構成は60・70歳以上が中心となり、企業の定年が延長されたことにより、定年退職後に田んぼに関わり始める人の高齢化も進展しているそうです。
認定農業者(県が認定する農業者)は最盛期の2010年で25万人ですが、現在も減少傾向であり、法人経営ではなく個人農家が圧倒的に多く、全国区でみると65歳以上が43%を占めているそうです。
越前市も全国の状況を踏襲する形で、94%が個人経営であり、越前市の認定農業者は65歳以上が64%で、高橋さんらがお付き合いしている農家さんも世代交代が進まず、後継者が見つからないという状況にあるそうです。
配布資料のデータを参照すると、平成17年(2005年)では3500人以上だった農業人口が令和7年(2025年)では1000人となっています。数の減少は個人経営の農家を個別ではなく集落毎の単位にまとめるという国の方針の影響もある一方で、人自体が単純に減っている構造があると高橋さんは述べられます。

世界の食糧自給率(画像出典: JA GROUP HOKKAIDO)
日本のカロリーベースの食糧自給率は先進国の中でも格段に低く、異常気象や人口爆発に伴う食糧生産国の輸出制限の影響を大きく被ることが予測され、米や小麦ではカロリーベースの自給率改善が難しいため、改善のためにはイモ類を中心に食べるしかないという記事が「農業新聞」に掲載されたことも紹介されました。
越前市の脳農業
越前市は土地の6割が山林、4割が平地で、水稲(すいとう)栽培を中心にしつつ、麦、ソバ、大豆や園芸作物(キュウリ、トマト)も若干生産されています。そのほかには、養鶏や一部乳牛、福井県内で唯一の養豚(近年はの豚熱の関係で規模縮小)なども行われています。
園芸農業は農協でブランド化しているトマト(紅しきぶ)、キュウリ(緑しきぶ)や、西瓜(しらやま西瓜)などが展開されるほか、畜産業の中では養鶏用に越前市で生産される飼料用米も用いられ、飼料においても地産地消が推進されています。
転作作物(田んぼで生産される米以外の農作物)は 大麦、ソバ、大豆、飼料用米などを生産しており、平成29年頃から行政の転作要請が弱まったことで農家が主体となった作付けが可能となり、麦が減少し米が増加したそうです。とはいえ、米の生産を抑制する減反制度が撤廃されたわけではなく、農家側も機械設備や農地を有効に使いたいので、水稲でだけなく麦やソバなどがバランスよく作られているそうです。
福井県の水稲作付面積は全国で22番目であり、越前市の作付け面積は福井県内の10%と県内で4番目の規模を有し、米の生産地としては目立ったところのない小規模産地ですが、近年では化学肥料・化学合成農薬を用いない有機農業に注力し、地域の特色として展開されています。
有機農業推進の取り組み
一般的には農薬や化学肥料を使うものが慣行栽培と呼ばれており、有機農業に積極的に取り組む越前市は85%が慣行栽培で、残りの15%が減農薬を減化学肥料の特別栽培 2・3・4と無農薬・無化学肥料有機栽培で占められています。さらに細かい内訳は65.9%が特別栽培米、34.1%が有機栽培米となっています。
有機栽培は、作る人と食べる人に負担が少ない、生き物に優しい(田や畑における生物多様性や生態系の確保・維持)、地球にやさしい(環境負荷の低減、Co2削減、価値の付与)という利点があり、豊岡市の「コウノトリ育む農法」と越前市の「コウノトリ呼び戻す農法」などは利点を活かした農作物の代表例といえます。
越前市は作付け面積の関係上大規模な圃場整備が難しいため、農産物の付加価値を高められる有機農業に県・JA・生産者が協力して取り組んでおり、特にJA越前たけふ(福井県の農協は大規模なJA福井、越前市・南越前町の2か所が管轄区域で独自性の強いJA越前たけふの2つ)の協力が大きいと高橋さんは述べられます。
有機栽培の取り組みの中で、2009年に「コウノトリ呼び戻す農法部会」という農協内の部会が立ち上がり、化学肥料を使わない、水田での生物の多様性の維持(魚道の整備など)、田んぼの水を抜かない冬季湛水の実施など、豊岡市を手本にした農法によってコウノトリの住める環境を整備したところ、すぐにコウノトリがやってくるといった成果が表れたそうです。
そういった取り組みの効果で有機米の面積の拡大が進められ、2009年に13ヘクタールだった有機米の取り組み面積は124ヘクタールまで拡大を見せたそうです。また、越前市は2023年の総合都市計画で有機農業拡大やスマート農業の推進などの計画を立て、2024年にオーガニック都市宣言を行い、市を上げて有機農業に力を入れた取り組みを行っていることを広く宣言・周知しています。
参考:「越前市 オーガニック都市宣言 有機産地アピール」(2024年5月15日, 中日新聞)
越前市では規模感のある有機農業の推進のために、農業法人ファーム広瀬(現在は株式会社)の栽培技術を水平展開や、ドローンやセンサーカメラなどのスマート技術(追肥適期を特定する実証実験や水管理のスマート化)の導入、有機農産物の高付加価値化など、持続可能な食と農のあり方が実践的に進められています。
情報発信と地産地消
伝統(歴史的な名所、工芸品、先祖から継承した田畑などの土地)の維持と、スマート農業などの先進的な方法論の積極的な導入、ユネスコ創造都市ネットワークへの加盟や富裕層・海外向けに訴求力の高いサスティナブルツーリズムの推進といった情報発信などが越前市の取り組みにみられる特色です。
農産物の消費・販売の例では、「コウノトリ呼び戻す農法米」を提供(公食での消費と、それによる生産者の収入安定)するほか、有機農産物の加工販売(地域の特産品として産地以外でも販売)では、酒米や味噌などが作られており、コウノトリ米を使ったお酒「かたかた」(名称はくちばしを「かたかた」鳴らすコウノトリの求愛行動に由来)などもその代表例として紹介されました。
有機の産物の市内流通(地産地消)では、市内のスーパーや生協店舗のJA直売所や、農協・生協・社協のネットワークを越前市の環境農林部で構築しており、フードバンクやフードドライブによる無駄の削減や市内での地産地消の推進などで協働して、地産地消が実践されており、地産地消は、フードマイレージ(食品輸送量距離と重量を合わせた指標)の抑制やCO2排出量の削減や、地域の食糧自給率の上昇に寄与します。
また、国の事業の一貫として、生産地だけでなく消費地でも有機栽培米を提供するという取り組みが2025年にあり、荒川区の小学校や軽井沢の小中学校でも「コウノトリ米」が提供された事例もご紹介いただきました。
そのほかの PR活動としては、YouTube(「コウノトリちゃんねる」)で、市内の生産者や特産・加工品、活動のPR動画を発信するほか、様々なセミナーも開催しており、特に有機栽培に関する内容のものは一般の方の人気が高いそうです。
サスティナブルツーリズムもインバウンド需要の高まりとの関連で注目を集めており、越前市はBTV(Best Tourism Village)という国連が提唱する、海外富裕層向けの情報発信を進めており、越前市を紹介する海外向けのPR動画を制作し、国内では北海道ニセコ町、長野県白馬村、和歌山県高野山など全12地域が認定(令和7年11月時点)されているBTVに応募するといった取り組みも進められているそうです。
・後半:「日本の農業と越前市の農業について(2)」
関連記事
人気記事
まだデータがありません。