田内学さんの『お金と不安と言う幻想 一生働く時代で希望を掴む8つの視点』(朝日新聞出版, 2025)は、『お金の向こうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの描いた 予備知識のいらない経済新入門』(ダイヤモンド社, 2021)、『きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会の仕組み」』(東洋経済新報社, 2023)に続く3冊目の単著です。
金融教育家/お金の向こう研究所代表である田内さんは、2003年にゴールドマン・サックス証券に入社後2019年までトレーディング業務に従事され、退職後は執筆活動や様々な作品の監修協力、学生・社会人向けの講演活動などで精力的に活動されており、本書の中には学校での講演から得られた気づきなども記されています。

『お金の向こうに人がいる』は経済についての解説書で、主にビジネスマンが想定読者に据えられています。同書の主だった内容を噛み砕き、小中学生でも読みやすい小説形式に組み上げたものが、2024年に「読者が選ぶビジネス書グランプリ」ほか複数のアワードを受賞し、30万部を超えるヒットとなった経済教養小説『君のお金は誰のため』です。
『お金の不安という幻想』は『お金の向こうに人がいる』と同様の解説書でありつつ、『きみのお金は誰のため』のように幅広い年代層に読まれることが想定されており、先の2冊の中間的に位置付けられるほか、内容もこれまで同じく専門的な予備知識がなくとも豊富な例えでわかりやすく解説されています。
8つの視点と、行動要因となる「不安」
『お金の向こうに人がいる』は俯瞰的な視点で経済を見て、その構造を理解するような内容になっており、『きみのお金は誰のもの』は主人公である中学2年生の優斗の目線や生活という、身近かつミクロな視点が中心となっています。一方『お金の幻想という不安』は、ややマクロな視点に戻りつつ、不安の連鎖、「老後2000万円問題」や超高齢化社会、人口減少と労働者不足、年収と年収という価値基準、エッセンシャルワーカーの重要性や、AIの台頭といったアクチュアルなテーマも多く取り上げられています。
4部構成の本書では、「整理する」「支度する」「直視する」「協力する」という4つの行動が各部に割り当てられています。また、各部に関連する問いが副題に添えられたエピソードが2つずつ設定されており、それが副題にある「8つの視点」(8つの話)に相当します。
[整理する]
・焦りを生む空気からどう抜け出すのか?
・成功者を真似てもなぜうまくいかないのか?
[支度する]
・労働と投資、報われるのはどちらか?
・お金以外の何に頼ればいいのか?
[直視する]
・なぜ「稼ぐ人が偉い」と思われるのか?
・いつまでお金に支配されるのか?
[協力する]
・どうすれば仕事を減らせるのか?
・❝大人❞の常識はこれからも通用するのか?
8つの視点の中では第1話「その不安は誰かのビジネス――焦りを生む空気からどう抜け出すか?」、第6話「『お金さえあれば』の終焉――いつまでお金に支配されるのか?」の内容が特に印象深く、コスパ至上主義に陥っている現代の価値基準の根底には「不安」があると強く感じさせられました。加えて田内さんは、現代では「不安」が人を動かす作用を持ち、悪意がなくとも不安が増幅されてしまう構造について次のように述べられます。
たとえば「40代から始めるスキンケア」と言う言葉は、裏を返せば「40代で始めないと手遅れになる」と告げている。時間のリミットがちらつくと、つい不安になる。やがてそれは、焦りに変わり人は冷静さを失う。
(……)
特に教育や美容・健康、投資のように「お金をかけたい」と感じやすく、「ためらうと手遅れになる」と思い込みやすい分野では、不安が高まる表現が増えていく(消費者庁が令和4年度に行った消費者意識基本調査でも、「今後(も)お金をかけたいと思っているもの」として、健康、医療、教育、美容などが上位に並んでいた。そして、投資もまた、6年前に比べて2倍以上の関心を集めている)。
(32-33頁)
広告審査の厳格化によって目に入る機会も少なくなってきましたが、ネット上ではまだ時折コンプレックス広告を目にすることがあります。そういった広告には田内さんが指摘するような年齢、健康、美容や、お金に対する不安や劣等感を煽るような内容が多く見られます。
広告などを通じて誘発される不安や焦りがコスパ至上主義と結び付くケースも多く、タイパ(タイムパフォーマンス)よく、利益になるものを獲得したいという動機は「ないもの探し」的な不安や焦りを拠り所にしており、情報商材への誘導なども含んだ様々な広告では「簡単」「高収入」「短時間」「成功」「チャンス」など、不安や焦りの根底にあるコンプレックスをすぐに解消できるような謳い文句が多く並んでいます。
お金に対する不安
第1部では不安を煽る外的な要因などが分析され、経済学者の小野善康さんが『資本主義の方程式』(2022, 中央公論新社)で1990年代半ば以降に見られる日本の経済停滞の原因として取り上げた「モノ経済からカネ経済への移行」(モノの消費からカネの<貯蓄>へと消費者の関心が移る)によって、購買意欲を高めるために不安を煽り、「欲しがらせる」ような戦略を打ち出すようになったとされます(41頁)。
消費者の関心がカネの貯蓄から投資を通じて資産を増やす方向へと変化した契機は「老後2000万円問題」と目されており、2024年の新NISA制度のスタートによって、「投資は、やらなきゃ損」という空気が広まった(42頁)と指摘されます。
金融庁が2019年に発表したレポートに端を発する「老後2000万円問題」がお金へに対する不安を膨らませたほか、投資でお金を増やすことへの関心を高め、「金融商品」を提供したい企業と「投資でお金を増やしたい消費者」にニーズが一致(42頁)するようになると、人口構造や少子化問題など様々な要素が絡み合って生じている「老後の不安」が「お金の不安」に結び付けられ、お金を(たくさん)稼ぐことが老後不安の解決策であると誤読してしまうことも指摘されています。
多くの人にお金に対する不安を強く意識させたのが「老後2000万円問題」でありますが、田内さんは「お金の不安」は作られた側面があり、「老後2000万円問題」は昔からある生活や将来への不安を「お金の不安」として括ることで、地域や家族との支え合いや定年後にも働けるスキルの獲得といった選択肢が見え辛くしているほか、不安の根源は「老後資金の問題」と誤読してしまうことで、お金を貯める・増やすことばかりに目が行くようになってきた(44頁)と指摘されます。
田内さんは不安や焦りは自身のものではなく、投資や消費を促す「誰かが決めたモノサシ」に起因することもあり、自分自身の「価値のモノサシ」を持ち、同じ情報でも冷静に取捨選択することが重要と述べられます(53頁)。とはいえ、稼ぎの多い少ないが安易なモノサシとして機能し、コンプレックスを刺激する場面も多く、「外」である現実を直視することを促す第3部「直視する」の前半部には、次のように印象的な一文があります。
一昔前まで、お金の話はタブー視され、親の年収を子供が知ろうとすること自体が珍しかった。しかし今では、テレビやYouTubeで「年収」や「最高月収」といった言葉が飛び交い、若くして数千万を稼ぐ”成功者 “が称讃される。そんな環境で育てば、息子さんが「お金を稼ぐ人が偉い」と感じても無理はない。/ 就職活動中の大学生からは、こんな相談を受けたこともある。/ 「やりがいのある仕事をしたいのですが、年収が低いとステータスが低く見られそうで心配で……」。/ 彼は、生活のために稼ぎたいというより、人から低く見られたくない気持ちの方が強いようだった。 / マッチングアプリでも、年齢や居住地と並び、「年収」は欠かせない項目だ。人がお金で値踏みされ、いつの間にか私たちは、「年収の呪い」に縛られている。
(131頁)
「老後2000万円問題」や「年収の呪い」はお金に対する不安ですが、人材不足や少子化など、「お金では解決できない現実」が日本のあちこちで表面化(143頁)しており、田内さんは講演やイベント参加で訪問された地域で事例を目の当たりにし、運転手不足でバスの大幅減便(福井)、教員不足(熊本)など、「お金では解決できない現実」の実例もいくつか取り上げられています。
矢継ぎ早に飛び込んでくる(断片的な)情報に取り囲まれ、質よりも量的な知識が重視される現在では、時間をかけて情報を精査したり、断片あるいは点として参照すべき情報を他の点と結びつけて線を引き、情報を一連の「流れ」や「ストーリー」として解釈・熟考するような習慣は薄れつつあります。
時間的や年齢的なリミットという端的なわかりやすさで不安を煽ったり、「老後2000万円問題」のようセンセーショナルなトピックに突き動かされて「お金の不安」ばかりを追いかけてしまうと、インフラの担い手やエッセンシャルワーカーの不足・現象という解決すべき重大な事象を見落としてしまうため、断片的な情報に固執せず物事の理解・活用(リテラシー)が改めて必要とされる時代になっていると、「お金では解決できない現実」の例を知って感じさせられました。
人の仕事
第2部「支度する――『内』蓄える資産」は、労働を通じて得られる知識や経験、人間関係などは目に見えない資産であり「働いて稼ぐ力」を生み出す基盤になる(92頁)ことが論じられます。また、近年の人手不足では働き手の価値が急速に高まっている(96頁)ことも触れられ、「投資は労働より有利」という言葉に安易にまどわされないようにとも指摘されています。
本書では『お金の向こうに人がいる』と『きみのお金は誰のため』では言及されていなかったAIの発達についても触れられており、「これから労働が報われる時代はやってくるとしても『人の仕事とは何だろうか?』という根源的な問いと向き合う必要がある」(99頁) という問いかけが提示されています。
金融業界でもAIによる業務の効率化が積極的に推し進められ、問い合わせ対応からロボアド(ロボアドバイザー)による、(人が考えない)お任せ投資などが主流を占めはじめ、田内さんが指摘する「人の仕事とは何だろうか?」ということを改めて考えたり、「人の仕事」の価値付けや必要性についても、他者にその重要性を説明できるように熟考していくことは、人口減少や少子化に伴う労働力不足を背景した「ヒト(経済)」の時代へと向かいつつある現在おいて重要になると思われます。
田内さんは、スティーブ・ジョブズも好んで使ったと言われる自動車会社フォードの創業者ヘンリー・フォードの「もし顧客に望むものを聞いていたら、『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉を引き、AIであれば「もっと速い馬」を手に入れる方法を簡単に教えてくれただろうが、フォードは人々が望んでいたものは「速い馬」ではなく「速く移動する手段」であることに気づいた(99-100頁)という話を引き、次のように記されます。
問題の本質を捉えたからこそ、自動車という新たな価値を生み出すことができた。/AIは与えられた問題を解くことには極めて優れているが、解くべき問題を見つけ出すのは、人間の方が得意だ。そのためにも、日常を深く見つめる「観察力」が重要になる。
(100頁)
「観察力」はフォードの例でいえば、行間を読む力や、他者の立場でものを考える想像力にも相当するほか、弊社のビジネスであるウェルスマネジメントもまた、お客さまが言葉に出さないけれども感じていること・考えていること、暗黙の了解のような部分を想像・共感できるかという部分が重要になるという点で、AIにはできない「人の仕事」の領域にあると改めて感じさせられます。加えて、「信頼」や「誠実さ」といった要素も「人の仕事」において重要な役割を果たすのではとも感じています(「信頼」については、キャサリン・ホーリー『信頼と不信の哲学入門』なども参考になります)。
国内の潮流が「モノ経済」から「カネ経済」へと移行した後の停滞期や、2008年のリーマンショックによって年功序列や終身雇用といった旧来型の価値観が崩れ、ひとつの会社に生涯的に属さない働き方なども論じられるなど、これからの時代の「仕事」のあり方についても詳述されるなど、『きみのお金は誰のため』からステップアップした若い読者に向けた、多様な仕事観や働き方に関する提言も数多く登場します。その中で特に目を引いたのは「しごと」を「仕える事」ではなく、自ら主体的に「為(す)る事(こと)」を意味するとし「為事」と書いた森鴎外を参照た一文です。
本来、働くこととは、誰かに仕えるのではなく、自分の力で価値を生み出すことだ。(……)長らく社会では「役に立つこと」と「稼ぐこと」が分断されていた。「自分はどうやって役立てるのか」を真剣に考えても、「お金の不安」がなかなか減らない社会だった。
だが今、人手不足や安泰神話の崩壊を背景に、「役立つこと」をすれば「稼ぐこと」に繋がる社会に戻りつつある。
そして、「誰かの役に立ちたい」という願いは、単なる稼ぐ手段を超えて人を動かす強力な原動力となる、そのために求められるのが、周囲にニーズを敏感に感じ取る「観察力」だ。
(103-104頁)
て稼ぐ力」はゲーリー・ベッカーらの「人的資本(Human Capital)」、第4話「愛と仲間とお金の勢力図」で詳述されるほか、第4話で取り上げられる人との繋がりは、ロバート・パットナムらが論じた「社会関係資本(Social Capital)」であること(123頁)も補足として付け加えられます。
第4部「協力する――『内』から『外』を動かす可能性」のイントロダクションでは、福沢諭吉が「society(社会)」の訳語として使っていた「人間交際(じんかんこうさい)」についても触れられ、「人々の自発的なつながりこそ社会本来の姿なのだろう。/社会は、私たちの関係性の中で、/一人ひとりの選択の積み重ねとして静かに形作られる。それは『外部』ではなく、私たちの『内側』にあるものだ」(198頁)と述べられます。
凡そ世に学問といい工業といい政治といい法律というも、皆人間交際のためにするものにて、人間の交際あらざれば何れも不要のものたるべし。
『学問のすゝめ』, 岩波文庫版, 86頁
人間交際は前述のように「society」の訳語ではありますが、「社会」よりも「人間交際」のほうが、複数の人から構成される集団とも定義される「社会」の指す内容を、よりダイレクトに感じさせてくれるという印象があります。
本書で特に強調されるのは人との関わり(人間交際や社会関係資本)で、様々な形での繋がりや支え合いは、田内さんが「私たちが『お金の不安』と感じるものは、実は『変化する社会をどう生き抜くか』という、根本的な問いではないだろうか」(23頁)と述べる問いに対する回答のひとつ、とも考えられます。
「不安」と問題の解決に向けて
本書は複数の文脈があり、現状分析や不安の原因に関する第1部「整理する――『外』に侵されない『内』の軸」と、第3部「直視する――変えられない『外』の現実」で語られる内容は、主に青年から中高年層に強い訴求力を持つという印象がありました。一方、第2部「支度する――『内』に蓄える資産」と未来への希望や提言も多い第4部「協力する――『内』から『外』を動かす可能性」は若年層や新社会人などに主眼を置いた内容に調整されており、若年層にとっても敷居の低い物語形式で幅広い世代に間口を広げた『きみのお金は誰のため』よりも、各部の内容におけるターゲット層が明確化されているようにも感じました。
それゆえ、本記事ではウェルスマネジメントとも関わりの深い「人の仕事」や「人的資本」という観点や、過去の記事でも取り上げた「きずな貯金」(『うらやましい孤独死』などの著作を持つ、医師・医療経済ジャーナリストの森田洋之さんが「Social Capital」を訳した造語で、「社会関係資本」と同義)など、過去に取り上げてきた題材との共通点が多くある第1部と第2部への言及が中心となっています。
現在は「モノ(経済)」から「カネ(経済)」移行を経て「お金の不安」が社会の潮流占めるようになっていますが、人材不足と少子高齢化が進む現代について、田内さんは「『老後の不安』は、個人の資産形成で解決する問題ではなく、人口構造という国全体で取り組むべき問題だった。それがいつしか『個人のお金の不安』にすり替えられてしまった」(165頁)と指摘されるように、現状の問題を解決するためには「ヒト(経済)」に対する着目する必要があります。
田内さんは、経済を回すための3要素(「ヒト」、「モノ」、「カネ」)のいずれかが制約になることで、「価値観や社会のあり方が根本から変わる」(178頁)と述べ、現在は「カネ」が制約となっていますが、今後は「ヒト」が制約に移っていく(180頁)と指摘され、いずれ来る変化について次のようにまとめられます。
私たちがお金に縛られてきたのは、心が貧しくなったからではない。長いあいだ、「お金が制約だった時代」を生きてきたからだ。
その時代は今、終わりを告げようとしている。
これから私たちが大切にするべきなのは数字ではなく、その向こう側にいる「ヒトの力」ではないだろうか。
(192頁)
AIとの関連では「日常を深く見つめる『観察力』」が「人の仕事」として重要視され、人口構造の変化や少子化の影響に起因する労働力不足から「ヒト」が制約になっていくなど、今後は二重の意味で「人/ヒト」の時代となり、「人間交際」(ニュアンスとしては「社会」ではなく、「きずな貯金」や「社会関係資本」に似たもの)いずれ重要なものになっていくのではと考えられます。
第2部の後半部では、「内(あるいは人生)」に蓄えられる資産を突き詰めると、「人的資本(自分に頼る)」「社会関係資本(仲間に頼る)」「金融資本(他人に頼る)」の3つに収束(123-124頁)することが指摘され、お金/他人のみだけに頼ることは非常にリスクの高い生き方であり、田内さんは「内」の資産の中でも「人的資本」「社会関係資本」が、「金融資本」を増やすための土台として不可欠(125頁)と述べられています。
「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」については10年ほど前から国内でも注目されており、内閣府の資料では「『社会的な繋がり(ネットワーク)とそこから生まれる規範・信頼』であり、共通の目的に向けて効果的に協調行動へと導く社会組織の特徴」(「ソーシャルキャピタル (Social Capital)」1頁, 内閣府NPOホームページ公開資料)と定義されます。そのほかにも厚生労働省が関連資料をまとめたページを公開するほか、2015年7月付けで「地域保険におけるソーシャルキャピタルの活用等について」という自治体宛事務連絡を制作するなど、地域における繋がりの促進に注目が集まっていました。
しかし、コロナ禍における感染対策(ソーシャルディスタンス、緊急事態宣言等)でソーシャルキャピタルへの関心の広まりが停滞してしまったことで、コロナ禍の前年に表出した「老後2000万円問題」や「お金の不安」がより全面に出るようになったと考えられます。
「不安」の正体について考える
本書を通じての印象は、「お金の不安」という漠然としたイメージや、不安を呼び起こす扇動的な情報の内実が言語化されることで、「お金の不安」の影に隠れていた、2040年問題(高齢者人口の急増・労働力不足・社会保障負担の増大など)や少子化といったアクチュアルな事象を見過ごしていたことに気付かされました。
田内さんは老後不安をお金の問題と極端に結びつけることで、地域・家族との支え合いや定年後の労働を見据えたスキルの獲得といった不安の解決方法が見過ごされがち(44頁)と指摘されています。いわば、「お金の不安」が全面的な影響力を持つことによって、高齢者の在宅介護やコミュニティでの支え合いなどに森田さんが見出した「きずな貯金(=ソーシャル・キャピタル)」といった、お金とは別の動機で助け合える関係や、お互いに共感できる仲間といった、お金に縛られない人と人とのつながりが重要な価値を持つという意識が忘却されてしまうと感じさせられました(「きずな貯金」については、関連記事もご参照ください)。
繰り返しになりますが、お金(ならびにその向こう側にいる人)ついて考えることを主題にした本書は、お金を増やす方法を知る本ではなく、未来のあり方についてや長期スパンで物事を思考するための視点を学ぶ本であります。
もちろん投資や投機についての違いや、テクニカルなものではなく株式市場を中心にした資産運用のための心得や市場についての解説もサポートされているので、「儲ける方法・損しない方法」ではなく市場の構造や役割を知りたいという人も、『お金の向こうに人がいる』と合わせて読まれることをお勧めします。
加えて、本書で扱われている内容はコスパ重視の現代社会の分析に関する部分も多く、コスパ重視とは逆の方向性を持つ「観察力」や想像力や「社会関係資本(きずな貯金)」など、質よりも量とが先行する現代において、人と人との繋がりが改めて重要な価値を持っていることに気づかせてくれる本でもあります。
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