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国内IPコンテンツのグローバルな展開

国内IPコンテンツのグローバルな展開

日本国内のマンガ、アニメ、ゲーム、特撮映像作品、キャラクター商品など、いわゆるIP(Intellectual Property / 知的財産)ビジネスが世界から注目を集めていることは良く知られています。2024年11月で50周年を迎えたハロー・キティ(株式会社サンリオ)は、80年代後半頃から世界各地で人気を博すようになり、近年では人気マンガ『ちいかわ』のキャラクターグッズ(プロデュース: 株式会社スパイラルキュート)が東アジアで爆発的な人気となり、中国ではMINISIO(名創優品)とコラボしたポップアップイベント「Miniso × Chiikawa」に多くの人が押し寄せ、10時間で268万個のグッズ売り上げを記録したことなどが日本でも話題になりました。

サウジアラビアには人気アニメ『ドラゴンボール』のテーマパークが建設されることが東映アニメーションから2024年3月に発表されたほか、同国は開発プロジェクト「Qiddiya(キディヤ)」でeスポーツやIPを活かしたエンターテイメント特区の開発を進めています(サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、日本のマンガやアニメ、そしてゲーム好きとしても知られています)。

幅広い世代に訴求力を持ち、世界的な認知度を誇る国産IPの代表格のひとつといえば海外ではPokémonという名称で受容されている「ポケットモンスター」(株式会社ポケモン)があげられます。1996年に発売されたゲームを起源とし、様々なコンテンツが今現在も継続的に展開されていますが、そのなかでも特に強い商品力を持っているのが『ポケモンカードゲーム』(開発: 株式会社クリーチャーズ、発売元: 株式会社ポケモン)です。

『ポケモンカードゲーム』の初期シリーズは1996年に発売され、以降はゲーム本編の発売に合わせて、カードゲームも新シリーズが継続的に発売され、株式会社ポケモンの公開情報「数字でみるポケモン」によれば、2024年3月末現在で世界93の国や地域で販売され、全世界累計648億枚以上が製造されているそうです。

根強いカードゲーム市場

トレーディング・カードゲーム(TCG)は、米国のウィザーズ・オブ・ザ・コースト(WotC)が1993年に発売した『マジック: ザ・ギャザリング』(通称「MTG」)から始まり、国内では『ポケモンカードゲーム』のほか、「MTG」の影響を組むカードゲームとしてマンガ『遊☆戯☆王』に劇中登場した「マジック・アンド・ウィザーズ」(アニメ版の名称は「デュエル・モンスターズ」)を1999年にTCGとして商品化した『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』(通称「OCG」、制作・販売: 株式会社コナミデジタルエンタテイメント)などがメガヒットコンテンツとして知られるほか、WotCが開発を担当し、国内では株式会社タカラトミーが発売を担当する「MTG」派生作品『デュエル・マスターズ』(こちらもマンガやアニメなどのメディアミックスを展開)も人気を博しています。

「OCG」も海外展開を行っており、2009年7月時点では「世界で最も販売枚数の多いTCG」としてギネス認定されました。しかし現在では『ポケモンカードゲーム』にその地位を譲り渡しています。加えて、原作マンガ・アニメ共に世界的な人気を誇り、Netflixで実写が版制作されたほか新アニメ版の制作が発表されたことでも話題の『ONE PIECE』をTCG化した『ONE PIECEカードゲーム』(制作・発売: 株式会社バンダイナムコHD)などは、マンガ原作の1作品をモチーフにしたTCGでありながらビッグネームに追随する人気を見せています。

TCGの新展開と中国市場

TCGの展開について駆け足でみてきましたが、2024年~2025年にかけては、歴史的なIPがTCGに参入するという新たな展開を迎えています。

つい先ごろ、映画『ゴジラ-1.0』の続編制作と合わせて、新作TCG『ゴジラカードゲーム』(企画・発売: 東宝株式会社、販売: 株式会社ブシロード)が発表されました。詳細は2025年1月に発表されるということで、商品展開や営業戦略についてはまだ明らかになっていませんが、70年の歴史と(アメリカ版を含め)30本近くの映画作品という豊富なアセット(資産)や、巨大怪獣というギミックを有効活用した特徴的なゲーム性や、ゴジラのネームバリューとのシナジー効果が期待されています。

ゴジラと同じく世代に跨るご長寿IPのウルトラマンは、2024年に『ウルトラマンカードゲーム』(略称「UCG」、企画・販売: 円谷フィールズHD株式会社、KAYOU/カーユ文化株式会社)を発売しました。国内でも複数本のCMが制作されており、そのうちの1本「怪獣&宇宙人編」は、バルタン星人を筆頭に知名度や人気の高い怪獣・宇宙人がフィーチャーされるなど、国内のコアファンに訴求する内容になっています。

さらに、渋谷、大須、日本橋では交通・屋外広告を展開し、webマーケティングではインフルエンサーやVTuberを起用し、SNSやYouTubeでの商品紹介を通じて若年層への認知度を押し広げるほか、公式大会「ウルトラリーグ」の開催もアナウンスされており、円谷フィールズは「UCG」の長期・継続的なシリーズ展開に注力しています。

他の有名TCGと同じく世界市場への展開を織り込み、2024年10月25日に世界23カ国・地域で同時発売された「UCG」ですが、特徴的なのはウルトラマンの玩具制作・販売などを手がけるバンダイナムコではなく、KAYOU(卡遊)グループが名を連ねている点です。

KAYOUは中国でカード制作や文房具事業などを手掛ける会社で、中国におけるウルトラマン(奥特曼)のライセンスを2018年に獲得し、トレーディングカード事業で大きな売り上げを伸ばしました。その後、三国志をテーマにした自社IPでも成功を収め、IP提供ではなく自社事業として円谷が立ち上げた「UCG」の世界展開に企画参加・全面協力で関わっており、円谷フィールズ(IP所有者)・KAYOUの2社による制作体制の構築は、企画制作、販売、IP所有会社がそれぞれ異なり商品企画に複数企業が名を連ねるケースよりも迅速な意思決定が行え、なおかつ高い利益率を上げられるという点で有利に作用することが多いと考えられます。

中国では2019年頃からウルトラマンが社会現象的なブームとなったといわれており、その背景には作品自体の完成度や「勇気」や「正義」を押し出したメッセージ性、テレビ放送でも人気を博した『ウルトラマンティガ』(1996)が中国の動画共有サイト「ビリビリ動画」で配信されたことで人気が再燃したこと、中国での放送が始まった93年頃に子供としてウルトラマンを視聴していた世代が大人・親世代になり、親子2世代でコンテンツを楽しむようになったことなど、複数の要因が指摘されています。

カードを筆頭とした玩具の大ヒットはもとより遊園地型水族館の上海海昌海洋公園内にウルトラマンをテーマにしたエリアが登場するなど、日本では想像できないほどの人気となっています。また興味深い点は、国内ではウルトラマンといえば初代『ウルトラマン』(1966)、『ウルトラセブン』(1967)の人気や知名度が圧倒的ですが、ネット記事の写真などを見ると、日本国内では平成ウルトラシリーズと括られる『ウルトラマンティガ』(1996)以降の作品のほうが、中国では強い人気を博しているという印象があり、その点には年長者を中心としたコアファンが多い日本と、近年の作品の需要が高く、ファン層もマスに広がっている中国との差異が表れているようにも思えます。

拡張を続けるIP展開

ULTRAMAN×AVENGERS #1

「UCG」とKAYOUの提携でみたように、現在のウルトラマンの主力市場は中国ですが、Netflixの長編CGアニメ『ウルトラマン: ライジング』(2024)が米国で高評価を呼ぶほか、マーベルは同作の配信時期に合わせてコミックシリーズULTRAMAN× AVENGERSを刊行、さらに国内ではウルトラマンとスパイダーマンがコラボしたマンガ『ウルトラマン アロング・ケイム・ア・スパイダーマン』も刊行されるなど、米国市場や国内の新規ファン層(アメコミファン)に対しても積極的なアプローチが行われています。

IPコンテンツ(特に映像作品)のグローバル展開がこれまで以上に急速に発展した背景には、動画共有・配信サービスが大きく影響していることに異論はないと思われます。『ウルトラマン: ライジング』のように、国産IPを用いた作品が海外の大手配信会社の主導で制作され、サイマル(同時)配信によって世界同時公開・配信が行われるというケースも定着しつつあります。

Netflixによる世界配信の効果について、円谷フィールズHDの2025年3月期中間期決算説明会の質疑応答では「世界中で配信された結果、ウルトラマンを初めて見たという声も届いており、広範な国と地域での認知拡大に貢献してくれている。また、本作品がきっかけとなり『ウルトラマン カードゲーム』の欧州展開にも繋がる等、グローバルビジネスの進展にも確かな手応えを感じている」(円谷フィールズHD公開資料より引用)という回答があり、IPビジネスのグローバル展開において、コンテンツ作品の世界配信が非常に重要な役割を担っていることが確認できます。

ウルトラマンシリーズの最新作であるテレビ番組『ウルトラマンアーク』(2024)もテレビ東京系列6局に加え、YouTubeや中国のビリビリ動画などのネット配信で11言語対応字幕の世界同時期放送・配信というハイブリッド形式で、東アジアを中心に海外展開を行っています。さらに中国、香港、台湾、タイ、インドネシア、ベトナムでは現地語の吹き替えによる同時放送が行われるなど、グローバルな展開を押し進める一方で、現地語での吹き替えなど地域に合わせたローカライズにも積極的な点が特徴です。

日本政府も「新たなクールジャパン戦略」を2024年8月に発表し、コンテンツ産業を担う人材育成支援や、海外展開などを施策の中に盛り込んでいます。しかし、コンテンツ制作には時間を要するため、短期的な結果を求めることは困難ですが、TCGのように既存作品のアセットを利用した派生作品は、新規作品よりも短時間で形にすることができます。さらに、カード商品は非常に高い利益率を誇り、人気IPを使ったカード商品を配する企業(バンダイナムコ、タカラトミー、ブシロード、カバーなど)の業績に大きく寄与しています。そういった背景もあり、ウルトラマンが社会現象化した巨大市場である中国に注力する円谷フィールズのIP事業展開、特に「UCG」の売り上げが加わる本決算で中国市場の影響がどのように出るかが期待されています。

今回はビジネス的な側面からIP産業やTCGを捉えてきましたが、TCGはゲームではなくカードの部分に着目するとコレクションの要素の高いアイテムとして楽しむことができます。そこにゴジラやウルトラマンという長い歴史を持つビッグIPが加わることで、それらの作品で育った方がプレイヤーではなくコレクター的なポジションで楽しめるような付加価値が生じています。

機械や重工業と比べると規模やスケール感が見劣りがちなIP産業やコンテンツビジネスですが、急速な勢いでグローバルな展開が整備されているほか、膨大なアセットを活用した商品展開や作品配信、中国市場の開拓やサウジアラビアを中心としたオイルマネー(コンテンツマネー)の流入など、今後の成長に繋がる話題が豊富にあるので、興味のある方は今後の動向をチェックしてみてはいかがでしょうか。

参考資料

現代中国社会のオタク文化 : 『ウルトラマンティガ』と『新世紀エヴァンゲリオン』の事例から」(万  峻滕, 2022, 『桃山学院大学社会学論集』, 55巻2号, 211-232頁)

ウルトラマンのエリア開業   中国、親子ファン拡大へ」(2022年7月24日 産経新聞  )

60年愛される『ウルトラマン』中国で人気の必然」(武井保之, 2023年4月21日 東洋経済ONLINE)

『ちいかわ』人気が東アジアで急拡大 「世界的に消費傾向がオタク化」と判明」(2023年12月7日 KAY-YOU)

世界初のゲームとeスポーツの‘‘街’’がサウジアラビアの‘‘キディヤ・シティ’’に誕生。‘‘ゲーミング&eスポーツ地区’’は、砂漠の中に生まれる遊びの桃源郷」(稲垣宗彦, 2024年1月31日 ファミ通.com)

世界初となる『ドラゴンボール』テーマパーク建設へ!」(2024年3月22日 東映アニメーション)

『ウルトラマンアーク』がアジアで吹替え放送強化 日本と同時期展開」(2024年4月10日  アニメーションビジネス・ジャーナル)

日本発IPは魅力と危険にあふれている。中国でのちいかわ大ヒットと炎上の罠から海外展開のヒントを」 ( 2024年4月15日  日経COMEMO)

日本の数倍の“物量”だ……! 中国に行ったら『ウルトラマン』人気のすさまじさに驚いた」(マシーナリーとも子, 2024年4月27日  ねとらぼ)

ポケモンカード、2023年に日本で過去最高の1337億円の売り上げ 遊戯王、マジックなどの合計を上回る」(2024年4月30日 PTCGL News)

『オイルマネーではなく、コンテンツマネーだと思ってほしい』サウジのマンガプロダクションズCEOが語る、中東アニメビジネスの課題と可能性」(杉本穂高, 2024年6月18日  Branc)

ウルトラマンとアベンジャーズ、スパイダーマンが初タッグ! コミックス 日米同時リリース決定」(2024年7月21日  円谷ステーション)

ハローキティ50歳、『カワイイ』で世界席巻」(リーディー・ガロウド, 2024年11月21日, ブルームバーグ)



鈴木 真吾

鈴木 真吾

2023年3月よりインハウスクリエイターとして写真・映像撮影および編集、グラフィックデザイン、DTPなどを担当。専攻は文化社会学、表象文化論等。

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